心臓組織スライス研究の準備、データ取得、分析
- Orange Science
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心臓組織スライス研究 — 心機能解析のプラットフォーム

心臓の収縮・弛緩機能を精密に解明し、疾患モデルや治療効果の評価を行うためには、生理学的に意味のある組織レベルのデータ取得が不可欠です。単一心筋細胞モデルと全心臓モデルの中間に位置する心臓組織スライスは、多細胞構造と細胞間シグナルを保持しつつ、高度な機能パラメータの測定を可能にするモデルとして注目されています。
本ページでは、心臓組織スライスの準備・データ取得・解析の概要と、研究を強力にサポートする IonOptix社の Cardiac Slice System の特長をご紹介します。
心臓組織スライスの準備・データ取得・解析についてはDr. Bradley Palmer 氏の下記ウェビナー動画を参考にしています。
「単離心筋細胞とは異なり、心臓組織スライスは、線維芽細胞と筋細胞の両方を含む、生来の心筋組織をよりよく保存します。また、心臓全体の研究とは異なり、スライスはカルシウム一過性などの機能的パラメータの取得に適しています。しかし、どちらのモデルとも異なり、心臓スライスは広く利用されておらず、その調製は多くの研究室にとって依然として大きな課題となっています。このウェビナーでは、ブラッドリー・パーマー博士が、力とカルシウム、ワークループ、応力とひずみの測定のために心臓スライスをうまく調製する方法をご紹介します。また、データ分析と解釈についてもご説明します。」
主なトピック:
心臓スライスの準備方法
心臓スライスから取得できるデータの種類
心臓スライスからのデータの分析および解釈方法
心臓組織スライスとは
心臓組織スライスは、全心臓では困難な解析を可能にする 組織構造を保持した薄切片モデルです。生体内の筋繊維ネットワークや細胞間結合を維持し、収縮・カルシウム応答などの機能データを取得できます。これは単離心筋細胞とは異なり、多細胞環境と生理学的関連性を保持したまま実験が進められる点が大きな利点です。
1. 準備:高品質なスライス作製
スライス作製は、心臓から組織を取り出し、適切な方向・厚さで切片化するプロセスです。動画では、Dr. Bradley Palmer 氏が 心臓組織スライスの準備手順を実演しています(準備手順、注意点含む)。この工程は尤も注意を要する部分であり、成功した作製が再現性の高い機能データ取得につながります。
2. データ取得:力学パラメータとカルシウム
IonOptix の Cardiac Slice System は、準備したスライスを高度な計測環境に配置し、以下のデータをリアルタイムで取得できます。
収縮力(Force)固定されたスライスの両端にフォーストランスデューサーが接続され、収縮力発生を高感度に測定します。
カルシウム動態(Calcium Transients)フルオロフォトメトリーにより、蛍光カルシウムインジケーターを用いたカルシウム変動を定量化できます(Fluo-4、Fura-2、Indo-1等)。
力-長ループ(Work Loop)心臓全体で行われる圧-容積ループに相当する、力と長さの変化を繰り返し測定することで、機械的仕事・パワー、組織の弾性・コンプライアンスを捉えます。
これらの計測は単一の装置で連続的・高精度に取得できるため、収縮性・カルシウム制御・機械的特性の統合解析が可能です。
3. 解析:生理学的意味づけと応力・ひずみ評価
取得したデータは、動的な cardiac work loops(力-長関係)を描出し、応力(Stress)やひずみ(Strain)といった心機能パラメータを解析することができます。これにより、疾患モデルや薬理学的処理が心筋組織レベルでどのように機能に影響するかを詳しく評価できます。解析は専用ソフトウェアで制御・可視化され、定量比較・長期保存・統計処理も支援します。
IonOptix Cardiac Slice System — 製品特長
IonOptix の Cardiac Slice System は、スライス準備からデータ取得・解析までを一貫して支援するプラットフォームです。主な特長は以下の通りです。
始めから終わりまでのアプリケーション対応 組織スライスの設置、温度・酸素供給制御、電気刺激まで含めた包括的な実験環境を提供します。
高感度フォース測定と長さ制御 高精度フォーストランスデューサーとプログラム制御可能な長さコントローラーにより、微小な力学変化も捉えます。
同時測定による統合的分析 カルシウムシグナルと収縮力を同時に取得することで、興奮-収縮連関(E-C coupling)の動的挙動を深く理解できます。
機械的パラメータの抽出仕事ループ、弾性・コンプライアンス、パワーといった心筋機能の定量指標を導出可能です。
導入メリット
項目 | 優位性 |
|---|---|
生理関連性 | 多細胞構造と細胞間シグナルを保持 |
データ多様性 | 力、カルシウム、ワークループ同時取得 |
解析深度 | 応力・ひずみを含む高度な計測 |
再現性 | 標準化された計測フレームワーク |
心臓組織スライスモデルは、疾患機序の解明や薬剤効果評価、機械的特性解析において、単一心筋細胞や全心臓モデルよりも高い生理的関連性と高精度なデータ取得を可能にします。IonOptix Cardiac Slice System は、このモデルを実験的に活用するための総合プラットフォームとして、研究開発のスピードとデータ品質を大きく向上させます。
1. 準備:高品質な心臓組織スライス作製
― 再現性の高い心機能データ取得のために ―
心臓組織スライス(Cardiac tissue slices)研究において、スライス作製の品質は、その後に取得される収縮力、カルシウム動態、ワークループ、応力・ひずみといったすべてのデータの信頼性を左右します。高品質なスライスを安定して得ることは、再現性の高い心機能評価を実現するための最も重要な第一歩です。
心臓組織スライス作製に求められる品質要件
高品質な心臓組織スライスとは、以下の条件を満たした状態を指します。
心筋線維配向や細胞間結合が保持されていること
切断面の損傷が少なく、厚みが均一であること
電気刺激に対して安定した収縮およびカルシウム応答を示すこと
酸素・栄養拡散が十分に行われ、機能低下が起こらないこと
これらの条件を満たすことで、組織レベルでの力学的・電気生理学的データを正確に取得できます。
前処理:組織ダメージを最小限に抑える
心筋組織は代謝活性が高く、摘出後の短時間で機能低下が起こり得ます。そのため、スライス作製の初期段階では、低温条件下での迅速な処理と十分な酸素供給が重要です。また、切削工程中の過収縮を防ぐため、作製条件を適切に設計することで、組織構造と機能の保持につながります。
配向とブロッキング:力学評価を見据えた切削設計
心筋は強い異方性を持つ組織であり、どの方向でスライスを作製するかが、後の力学測定結果に大きく影響します。力–長関係(ワークループ)や応力・ひずみ解析を行う場合、筋線維方向と測定軸の関係を考慮したブロッキングと配向決定が不可欠です。この段階での精度が、データのばらつきや解釈の妥当性を左右します。
切削:厚み・安定性・再現性の確保
心臓組織スライスは、一般的に約300 µm前後の厚みで作製されます。この厚みは、組織構造を維持しながら、十分な酸素・栄養拡散を確保するための実用的なバランス点です。切削時には、組織を安定して支持し、刃の状態や切削条件を適切に管理することで、切断面の損傷を最小限に抑えます。
トリミングと形状管理:解析精度を高めるために
切削後のスライスは、測定前に形状を整えます。幅や長さを揃え、端部の損傷領域を除外することで、個体差ではなく機能差を評価できる状態を作り出します。特に応力・ひずみ解析では、スライスの寸法が解析精度に直結するため、形状管理は重要な工程です。
マウント準備:次工程へのスムーズな接続
最終的に、スライスは専用クリップを用いて安定的に固定され、測定系へと移行します。この固定工程の安定性は、力の伝達や長さ制御の精度に影響し、測定データの再現性を高めます。
IonOptixの Cardiac Slice System は、こうしたスライス作製フローを前提に設計されており、準備されたスライスをそのまま高精度な力・カルシウム同時測定、ワークループ解析へとつなげることが可能です。
高品質なスライス作製がもたらす研究価値
適切に準備された心臓組織スライスは、単一心筋細胞では得られない組織レベルの力学特性と、全心臓モデルでは難しい高い実験制御性を両立します。その結果、疾患モデル解析、薬剤評価、メカノバイオロジー研究において、信頼性の高い心機能データを提供します。
2. データ取得:力学パラメータとカルシウム
― 心筋組織スライスから心機能を多角的に捉える ―
心臓組織スライスを用いた研究の最大の特長は、収縮力・カルシウム動態・機械的仕事といった複数の機能指標を、同一組織から統合的に取得できる点にあります。このアプローチにより、単一心筋細胞では得られない組織レベルの力学特性と、全心臓モデルでは困難な高い実験制御性を両立できます。
IonOptixの Cardiac Slice System は、こうした心臓組織スライス研究に特化して設計された測定プラットフォームであり、力学パラメータとカルシウム動態を同時かつ高精度に取得することが可能です。
収縮力(Force)の高感度測定
測定チャンバー内にマウントされた心臓組織スライスは、両端を専用クリップで固定され、高感度フォーストランスデューサーに接続されます。これにより、電気刺激に応答して発生する等尺性収縮力や、長さ制御下での動的な力変化をリアルタイムで計測できます。
収縮力データは、
収縮・弛緩速度
ピークフォース
力の時間変化
といった指標として定量化され、心筋組織の収縮能評価に用いられます。
カルシウム動態(Calcium transients)の同時計測
心筋収縮の根幹をなす興奮–収縮連関を理解するためには、カルシウム動態の評価が不可欠です。Cardiac Slice System では、蛍光カルシウムインジケーターを用いたフルオロフォトメトリーにより、細胞内カルシウム濃度変化を光学的に測定します。
このカルシウムシグナルは、収縮力データと完全に同期して取得されるため、
カルシウム上昇と力発生の時間関係
薬剤処理や刺激条件変更による応答変化
疾患モデルにおけるE–C couplingの異常
を、同一サンプル内で直接比較できます。
力–長関係とワークループ解析
本システムでは、スライス長を制御しながら収縮力を測定することで、力–長関係(Force–Length relationship)を取得できます。さらに、周期的な伸長・収縮を与えることで、ワークループ(Work loop)を描出し、心筋組織が1拍動あたりに行う機械的仕事を評価することが可能です。
ワークループ解析からは、
機械的仕事量
パワー
弾性およびコンプライアンス
といった、等尺性測定だけでは得られない動的な力学特性を導出できます。
応力・ひずみ解析への展開
スライスの寸法情報と力・長さデータを組み合わせることで、応力(Stress)およびひずみ(Strain)の解析も可能です。これにより、組織サイズや形状の違いを補正した上で、異なる条件間の力学特性を定量的に比較できます。
応力・ひずみ評価は、
疾患モデルと健常モデルの比較
薬剤処理による機械特性変化の検出
メカノバイオロジー研究
において、特に有用な指標となります。
実験環境の安定化:温度・酸素・電気刺激制御
測定中の心臓組織スライスは、温度制御されたチャンバー内で連続的に灌流・酸素化されます。また、フィールド電気刺激により、拍動頻度や刺激条件を厳密に制御できるため、再現性の高いデータ取得が可能です。
統合ソフトウェアによるデータ取得と解析
力、長さ、カルシウムシグナルは、専用ソフトウェア上でリアルタイムに表示・記録されます。これにより、測定条件の変更、トレース比較、定量解析までを一元的に行うことができ、実験効率とデータ品質の向上に貢献します。
データ取得がもたらす研究価値
Cardiac Slice System によるデータ取得は、以下のような研究用途に適しています。
心疾患モデルにおける収縮機能とカルシウム制御異常の評価
薬剤や遺伝子操作が心筋機能へ与える影響の定量解析
組織レベルでの機械的仕事・弾性特性の比較研究
次のステップへ
このようにして取得された力学パラメータとカルシウムデータは、心臓組織スライス研究の中核となる解析情報です。次のセクションでは、これらのデータを用いた ワークループ解析および応力・ひずみ評価の具体的な活用例をご紹介します。
3. 解析:生理学的意味づけと応力・ひずみ評価
― 心臓組織スライスから“心機能”を定量的に理解する ―
心臓組織スライス実験における最終的なゴールは、力やカルシウムといった測定値を単に記録することではありません。重要なのは、それらのデータを心筋の生理学的挙動として意味づけし、疾患・薬剤・機械刺激の影響を定量的に説明することです。
IonOptix の Cardiac Slice System は、力・長さ・カルシウムという複数の情報を統合解析することで、心筋組織の収縮特性、機械的仕事、組織物性を生理学的に解釈可能な指標へと変換します。
力とカルシウムの統合解析
― 興奮–収縮連関を可視化する ―
収縮力トレースとカルシウムトランジェントを完全に同期した状態で解析することで、心筋の興奮–収縮連関(Excitation–Contraction coupling)を詳細に評価できます。
この解析により、
カルシウム上昇開始から力発生までの時間関係
カルシウム減衰と弛緩速度の対応
最大カルシウム濃度とピークフォースの相関
といった情報を同一スライス内で直接比較することが可能です。その結果、収縮低下の原因がカルシウム制御異常なのか、ミオフィラメント応答の変化なのかを切り分けて評価できます。
力–長関係の解析
― 能動特性と受動特性を分離して評価 ―
Cardiac Slice System では、スライス長を制御しながら測定を行うことで、受動的な張力と能動的な収縮力を明確に区別して解析できます。
この力–長関係の解析からは、
心筋組織の弾性・コンプライアンス
線維化やリモデリングによる硬さの変化
前負荷に対する収縮応答の変化
といった、心筋の力学的特性を定量的に把握できます。これは、心不全や線維化モデルの評価において特に重要な指標です。
ワークループ解析
― 心筋が生み出す「機械的仕事」を捉える ―
周期的な伸長・収縮条件下で得られる**ワークループ(力–長ループ)**は、心筋組織が1拍動あたりに行う機械的仕事を可視化します。
ワークループ解析により、
一拍動あたりの仕事量
パワー(仕事量 × 拍動頻度)
収縮効率の変化
を評価することが可能です。これは、等尺性収縮測定では得られない、生理的拍動に近い心機能評価を可能にします。
応力・ひずみ解析
― サイズ差を補正した真の機械特性評価 ―
異なるスライス間で心筋機能を正確に比較するためには、力そのものではなく、応力(Stress)とひずみ(Strain)による正規化が不可欠です。
応力:発生した力をスライス断面積で補正
ひずみ:元の長さに対する変形率
これにより、組織サイズや個体差の影響を排除し、疾患モデル・薬剤処理・遺伝子改変による純粋な機械特性の違いを定量的に比較できます。
解析によって広がる研究応用
このような生理学的解析により、心臓組織スライス研究は次の段階へと進みます。
心疾患モデルにおける収縮能低下の機序解析
薬剤が心筋のどのプロセスに作用しているかの評価
メカノバイオロジー研究における力学刺激応答の定量化
解析までを見据えた Cardiac Slice System の価値
IonOptix Cardiac Slice System は、測定 → 解析 → 生理学的解釈までを一貫して支援することを目的に設計されています。
力・カルシウム・長さデータを統合し、応力・ひずみ・仕事量といった意味のある心機能指標へ変換できる点が、本システムの大きな特長です。
心臓組織スライス研究を一貫して支援する統合プラットフォーム
IonOptix社のCardiac Slice System

心臓組織スライスを用いた研究では、スライス品質の確保から高精度な機能計測、そして生理学的に意味のある解析までを、一貫したワークフローで実現することが求められます。IonOptix社の Cardiac Slice System は、こうしたニーズに応えるために開発された、心臓組織スライス研究専用の統合評価システムです。
本システムは、心臓組織スライスの準備後工程から、データ取得、解析までを見据えた設計を採用しており、研究者が本来注力すべき「心機能の解釈と比較」に集中できる環境を提供します。
力とカルシウムを同時に捉える高精度データ取得
IonOptix社のCardiac Slice Systemでは、心臓組織スライスを安定的に固定し、収縮力(Force)とカルシウム動態(Calcium transients)を同時にリアルタイム測定することが可能です。これにより、興奮–収縮連関を直接的に評価でき、薬剤処理や疾患モデルが心筋機能に与える影響を、同一サンプル内で定量的に比較できます。
ワークループによる動的心機能評価
等尺性収縮評価に加え、本システムはワークループ(力–長ループ)測定にも対応しています。周期的な伸長・収縮条件下で得られるワークループ解析により、心筋組織が1拍動あたりに生み出す機械的仕事量やパワーを評価することができ、生体心臓に近い動的心機能解析を実現します。
応力とひずみに基づく定量比較
Cardiac Slice Systemは、力と長さのデータにスライス寸法情報を組み合わせることで、応力とひずみの測定・解析を可能にします。これにより、スライスサイズや個体差の影響を補正した上で、疾患モデル、薬剤処理条件、遺伝子改変間の純粋な機械特性の違いを定量的に評価できます。
研究の再現性と解釈性を高める設計思想
IonOptix社のCardiac Slice Systemは、 心臓組織スライス(準備、データ取得、分析)を一つの連続した研究プロセスとして捉え、 力とカルシウム、ワークループ、応力とひずみの測定までを一貫して支援することを目的に設計されています。
その結果、
心疾患モデル研究
薬理評価・創薬研究
メカノバイオロジー研究
といった幅広い分野において、信頼性の高い心機能データの取得と解釈を可能にします。
IonOptix社のCardiac Slice System は、心臓組織スライス研究を「測定」から「意味づけ」へと進化させる、次世代の心機能評価プラットフォームです。
その他にも、様々な装置を取り扱っております。




