MEA(マイクロエレクトロードアレイ)
MEA(マイクロエレクトロードアレイ)
MEA(マイクロエレクトロードアレイ:Microelectrode Array)は、微小な電極(マイクロエレクトロード)を格子状に配置したデバイスで、生体由来の細胞や組織の電気的活動(スパイク、活動電位、フィールドポテンシャルなど)を非侵襲的にリアルタイムで記録・解析する装置です。
基本的な仕組み
MEAは以下のように機能します:
マイクロ電極の配置
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数十〜数百個の微小電極(直径10〜30μm程度)が、ガラスやプラスチックの基板上に格子状に配置されています。
細胞の培養
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神経細胞や心筋細胞などの興奮性細胞をこの電極上に培養します。
電気信号の検出
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細胞が活動する際に発生する細胞外電位(extracellular potential)を、電極が検出します。
リアルタイム測定
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検出された信号は増幅・デジタル変換され、PCなどでリアルタイムに表示・解析されます。
主な用途
MEAは多様な研究分野・応用に使用されています:
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神経科学
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ニューロンのスパイク活動・ネットワーク形成・同期性などの解析
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心臓研究
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心筋細胞の拍動リズム・伝導速度・心毒性評価
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薬理・毒性試験
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新薬候補や毒物による神経・心臓への影響を非侵襲的に評価
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幹細胞研究
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iPS細胞やES細胞から分化した神経・心筋細胞の機能評価
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オルガノイド研究
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脳オルガノイドや心臓オルガノイドの電気生理学的機能の測定
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光遺伝学
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光刺激と組み合わせた機能的制御・応答解析
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MEAのメリット
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ラベルフリー:蛍光染色などが不要
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非侵襲:細胞を傷つけずに長期間観察可能
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高時間分解能:ミリ秒以下のイベントも記録可能
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リアルタイム:細胞応答を即座に検出できる
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マルチポイント測定:多数の電極で空間的な情報も取得可能
MEAシステムの研究分野例
MEA(マイクロエレクトロードアレイ)システムは、細胞の電気的活動をリアルタイムかつ非侵襲的に記録・解析できる強力なツールであり、以下のような多様な研究分野で活用されています。
神経科学(Neuroscience)
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用途・目的: ニューロンのスパイク活動、ネットワーク同期、可塑性の解析
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対象細胞・組織例: 初代培養ニューロン、iPS由来神経細胞、脳スライス
心臓電気生理学(Cardiac Electrophysiology)
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用途・目的: 心筋の拍動リズム、伝導速度、心毒性評価
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対象細胞・組織例: ヒトiPS由来心筋細胞、ラット新生児心筋細胞
薬理学・毒性試験(Pharmacology & Toxicology)
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用途・目的: 薬剤の神経活性・心毒性のスクリーニング
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対象細胞・組織例: 多様な薬剤と興奮性細胞
幹細胞研究(Stem Cell Research)
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用途・目的: iPS/ES細胞の分化評価、機能成熟度の測定
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対象細胞・組織例: iPS細胞由来ニューロンや心筋細胞
発達神経科学(Developmental Neurobiology)
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用途・目的: 神経ネットワークの形成過程、発達障害モデルの解析
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対象細胞・組織例: ラット・マウス胎児由来神経細胞など
疾患モデル研究(Disease Modeling)
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用途・目的: 遺伝性疾患、てんかん、アルツハイマー病などのモデル評価
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対象細胞・組織例: 患者由来iPS細胞、疾患変異導入細胞
オルガノイド研究(Organoids)
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用途・目的: 脳・心臓オルガノイドの機能解析、薬剤応答の評価
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対象細胞・組織例: ヒト脳オルガノイド、心筋オルガノイド
光遺伝学(Optogenetics)
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用途・目的: 光刺激と電気的応答の相関解析
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対象細胞・組織例: ChR2などを発現させた神経細胞系
人工網膜・バイオエレクトロニクス
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用途・目的: 神経接続の電気的応答、デバイスとのインタフェース評価
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対象細胞・組織例: 網膜切片、網膜オルガノイド
毒性学(Neurotoxicity/ Cardiotoxicity)
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用途・目的: 化学物質、環境毒素の安全性試験
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対象細胞・組織例: 神経細胞や心筋細胞に対する影響
応用例の具体イメージ
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てんかん研究:過剰発火や同期活動をMEAで定量化
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パーキンソン病モデル:ドパミンニューロンのスパイクパターン変化を観察
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新薬スクリーニング:数百化合物を同時に96ウェルで評価
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発達障害研究:ASD(自閉スペクトラム症)モデル細胞のシナプス活性異常を解析
MEAは細胞レベルでの「機能評価」が可能であるため、形態やマーカー発現だけでは捉えきれない細胞機能の変化を定量的に測定できる点が大きな強みです。
MEAシステムの例
Axion BioSystems社「Maestro Pro」
Axion BioSystems社の「Maestro Pro」は、神経細胞や心筋細胞などの興奮性細胞の電気的活動をラベルフリーかつリアルタイムで測定・解析できる、マルチウェルフォーマット対応のマイクロエレクトロード・アレイ(MEA)システムです。この装置は、ハイスループットなin vitroアッセイを簡便に実施できるよう設計されており、6、24、48、96ウェルのMEAプレートに対応しています。
主な特徴
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768電極による同時測定: 最大768チャネルでのデータ取得が可能で、細胞の電気的活動を高精度に記録します。
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ラベルフリー・リアルタイム測定: 蛍光染色などのラベルを使用せず、細胞外電位をリアルタイムで測定できます。
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インピーダンス測定機能: 細胞の増殖、傷害、形態変化などをラベルフリーで経時的にトラッキング可能です。96および384ウェルのインピーダンスプレートに対応しています。
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環境制御機能: 装置内にミニ・インキュベータを搭載し、温度やCO₂濃度を自動で正確に制御。ノイズや振動の影響も最小限に抑えられています。
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簡便な操作性: ハードウェアの操作はボタン1つで行え、プレートの格納や環境コントロールの開始も容易です。
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多様なアプリケーション: 神経・心筋細胞の機能評価、iPS細胞由来細胞の分化評価、神経毒性・心毒性評価、痛み研究、オルガノイド解析など、幅広い研究に対応しています。
ソフトウェアモジュール
Maestro Proには、以下の専用ソフトウェアモジュールが用意されており、研究内容に応じた解析が可能です:
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神経モジュール: 神経細胞のスパイク活動やネットワーク機能の評価。
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心筋モジュール: 心筋細胞の電気的活動(Field Potential、Propagation、Contractility、LEAP)の測定・解析。
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MEA Viability: 電極への細胞の被覆や接着を測定し、生存率を評価。
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インピーダンスモジュール: 細胞の増殖や傷害、形態変化をラベルフリーでリアルタイムに測定。
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GxPインピーダンスモジュール: FDA 21 CFR Part 11準拠のアッセイに対応。
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オートメーションモジュール: リキッドハンドリングシステムとの連携による実験の自動化。
対応プレートと刺激機能
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MEAプレート: 6、24、48、96ウェルフォーマットに対応し、全電極からの電気刺激が可能です。
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インピーダンスプレート: 96および384ウェルに対応しています。
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光刺激装置Lumos: 光刺激による細胞のコントロールが可能で、24、48、96ウェルフォーマットに対応しています。
Maestro Proは、電気生理学的な実験を効率的かつ高精度に行いたい研究者にとって、非常に有用なツールです。詳細な情報は、Axion BioSystems社の公式ウェブサイトをご参照ください。
MEAシステムへのPrecisionary社 ビブラトームの活用
Precisionary社のCompresstome®ビブラトームは、MEA(マイクロエレクトロードアレイ)システムと組み合わせて使用することで、急性脳スライスや他の組織切片を高品質に作製し、電気生理学的解析の精度と再現性を向上させるための重要なツールです。
MEAシステムにおけるCompresstome®ビブラトームの活用
1. 高品質な組織切片の作製
Compresstome®ビブラトームは、生体組織や固定組織を高精度かつ一貫して切断できるよう設計されています。特に、神経細胞の電気的活動を測定するための急性脳スライスの作製に適しており、MEAシステムでの記録に最適な切片を提供します。
2. 電気生理学キットとの統合
Precisionary社は、Compresstome®ビブラトームと組み合わせて使用する電気生理学キットを提供しています。このキットには、以下のコンポーネントが含まれており、MEA実験の準備をサポートします:
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酸素供給アタッチメント:切片の酸素化を維持
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二重壁バッファートレイ:切断中の温度制御を実現
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磁気ブレードホルダー:安定した切断をサポート
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拡大鏡とLEDライトアセンブリ:切断中の視認性を向上
3. MEA実験の精度と再現性の向上
高品質な組織切片は、MEAシステムでの電気生理学的記録の精度と再現性を向上させます。Compresstome®ビブラトームを使用することで、細胞の損傷を最小限に抑えた切片を作製でき、MEAによる神経活動の正確な測定が可能になります。
Precisionary社のCompresstome®ビブラトームは、MEAシステムと組み合わせて使用することで、高品質な組織切片の作製と電気生理学的解析の精度向上を実現します。これにより、神経科学や心臓研究などの分野での電気的活動の詳細な解析が可能となり、研究の信頼性と再現性が向上します。
Precisionary ビブラトーム VF-510-0Z
Precisionary Compresstome® VF-510-0Zは細胞や組織の切片を特許取得済みの圧縮技術によりビビリなしで作製し、急性組織上の多くの生存細胞を維持します。解析した後、組織を取り出しスライスしたり、組織1つから複数の組織サンプルを取得することが可能です。
特許取得済みの圧縮技術によりビビリ・チャタリングなしで切片を作製し、急性組織上の多くの生存細胞を維持。良質な実験結果を保証します。
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従来のビブラトームの5倍の速さで切開し、ブレードを組織に当てる時間を短縮し、より良い切開を実現
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Auto Zero-Zテクノロジーにより、Z軸のたわみを1 µm未満に低減
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持ち運びに便利な軽量設計
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完全自動化:切開+厚み調整

特徴

A. 耐久性
静かで耐久性のあるパワフルなコードレスモーターを搭載
B. 洗浄が簡単
取り外し可能なバッファートレイとチューブベースにより、洗浄とチューブサイズの変更が容易
C. 切断サンプルの迅速な装填
スライド式コントロールボックスのワンタッチロック解除機構により、迅速なサンプルローディングが可能
D. ユーザーフレンドリーなコントロール
完全に統合されたコントロールボックスは、組織切片作成を制御するための直感的な制御パラメータを備えています。

E. 複数のブレードタイプに対応
新しいマグネット式ブレードホルダーにより、ステンレス製ブレードはマグネットで簡単に装着でき、セラミック製およびタングステン製ブレードは接着剤で装着できます。
F. 取り付けが簡単なブレードホルダー
ブレードの角度が固定されているため、手動での位置合わせが不要。
G. ミクロトームの長寿命化
内蔵のシースルーカバーにより、エアロゾル化した緩衝液から振動部を保護
Compresstome©ビブラトームの利点
アガロース包埋
アガロース包埋とは、Compresstome©振動型マイクロトームで組織切片を切り出す前に、組織試料をアガロース溶液で包埋することです。切片作製にかかる時間はほんのわずかで、より健康的で滑らかな組織スライドを作製できます。
Auto Zero-Z®テクノロジー
振動ヘッドは、Z軸方向の振動をなくすように正確に調整されています。Auto Zero-Z®テクノロジーは、生きた組織サンプルの表面細胞へのダメージを軽減し、薄切片のチャタリングを低減してイメージング結果を向上させます。
豊富なアプリケーション例
Precisionary社は、20年近くにわたり組織スライス装置を専門に扱ってきた会社です。免疫組織学や組織切片の培養、電気生理学や植物研究など、幅広いアプリケーションと引用実績があります。
仕様

レビュー


ジョナサン・ティン博士
アレン研究所
この装置の主な利点は、スライスのスピードが速いことと、アガロース包埋による手動の安定化です。冠状面でも水平面でも均一なスライスを作成することができ、経心筋灌流、脳の摘出、スライスをすべて10分以内に完了させることが日常的になっています。

クラウディア・ローベル博士
ミシガン大学
Compresstomeビブラトームを精密肺切片(PCLS)実験に使用していますが、切片作成に非常に満足しています。Compresstome は定期的に(週に何日も)使用しています。

Shaoyu Ge博士
神経生物学部門、SUNY
私たちは様々なベンダーのミクロトームを使用した経験がありますが、Compresstome®の優れたスライス能力に興奮しています。

Cynthia Koziol-White博士
ラトガース大学
Compresstomeは本当にきれいな肺切片を作ることができただけでなく、Krumdieckよりも多くの肺切片を作ることができました。低融点アガロースを注入した肺サンプルを切開したのですが、Compresstomeのおかげで数日間PCLSを作ることができました。これにより、肺スライスからの出力はKrumdieckより大幅に増加しました。
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vivoFlowは無拘束での呼吸機能解析装置です。全身、ヘッドアウト、ダブルチャンバーでの呼吸機能解析を提供します。
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