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培養肉研究における電気刺激|筋細胞の分化・成熟評価を支えるC-Pace EM

  • 7 時間前
  • 読了時間: 13分

細胞を増やすだけでなく、筋肉らしい構造と機能へ。

培養肉研究では、筋芽細胞を増殖させた後、筋管へ分化させ、配向した筋線維や収縮機能を備えた組織へ成熟させる工程が重要です。そのための物理的刺激の一つとして研究されているのが、培養中の筋細胞に対する電気刺激です。

IonOptix社のC-Pace EMは、培養インキュベーター内の細胞へ、設定した電圧・周波数・パルス幅・刺激時間に基づく電気刺激を与えられる研究用システムです。C2C12などの骨格筋細胞に加え、C-Pace EMを使用して3Dウシ筋組織を培養した研究も報告されています。


IonOptix社のC-Pace EM






※C-Pace EMは研究用機器です。食品製造設備または臨床用途の機器として認証された製品ではありません。



培養肉研究では、なぜ筋細胞への「刺激」が必要なのか

培養肉とは、動物から得た細胞を体外で培養し、食肉となる細胞や組織をつくる技術です。一般に、細胞の採取、増殖、分化、成熟、組織化といった複数の工程を経て研究が進められます。

培地組成や成長因子などの生化学的条件は、細胞の増殖・分化を制御するうえで欠かせません。一方、生体内の骨格筋は、神経からの電気的入力、収縮、伸展、細胞外基質からの力学的作用といった物理的な刺激も受けています。培養環境でこれらの一部を再現し、筋細胞の形態・遺伝子発現・収縮応答がどのように変化するかを調べることは、培養肉および筋組織工学の重要な研究テーマです。


筋芽細胞から筋管への分化・成熟を検討する

筋芽細胞は分化すると互いに融合し、多核の筋管を形成します。その後、サルコメア形成や筋原線維の組織化が進み、より成熟した筋組織に近づきます。C2C12と初代筋前駆細胞を用いた研究では、適切なタイミングの電気刺激によって、2Dおよび3D培養におけるサルコメア形成が促進されたと報告されています。ただし、刺激への反応は細胞株と初代細胞で異なりました。培養肉研究でも、C2C12で得られた条件をウシ、ブタ、ニワトリ、魚類などの初代細胞へそのまま適用せず、細胞ソースごとに検証する必要があります。


収縮できる筋組織の形成と機能を評価する

筋組織の成熟は、形態やマーカー発現だけでは十分に捉えられません。電気刺激に同期して収縮するか、変位や収縮力がどの程度かといった機能評価を組み合わせることで、組織の状態をより多面的に解析できます。培養中の慢性的な刺激は、筋管形成や成熟へ与える影響を調べるために利用できます。培養後に短時間の刺激を加え、その応答を観察する方法は、形成した組織の興奮収縮連関を評価する手段になります。研究目的に応じて、培養刺激と評価刺激を明確に分けた実験設計が重要です。


細胞、足場、刺激条件の相互作用を調べる

培養肉の組織形成には、細胞種だけでなく、ハイドロゲルや足場材料、培地、組織形状、固定方法なども影響します。同じ電気刺激条件であっても、電極配置、培地の導電率、液量、電極間距離、3D組織の厚さによって、細胞が受ける実効的な電場は変わります。

そのため、電気刺激は単独の因子としてではなく、細胞 × 培地 × 足場 × 組織形状 × 刺激条件の組み合わせとして検討する必要があります。



C-Pace EMが培養肉研究に使用された事例

Furuhashiらは2021年、収縮可能な3Dウシ筋組織を構築する研究にIonOptix社のC-Pace EMを使用しました。ウシ筋細胞を含むハイドロゲル構造体を作製し、足場材料と電気刺激の有無を比較しています。


論文で報告された主な実験条件

項目

内容

細胞・組織

ウシ筋細胞を含む3Dハイドロゲル構造体

比較した足場

コラーゲン、フィブリン・Matrigel混合物

使用機器

IonOptix C-Pace EM

電気刺激

1 Hz、2 ms、3 V/mm

刺激時間

1日2時間

刺激期間

培養3日目から14日目

主な評価

刺激に対する収縮、収縮変位、筋管占有率、α-actinin染色、サルコメア形成、筋管配向

フィブリン・Matrigelを用いた群では、培養中に電気刺激を加えた組織の100%が評価時の電気刺激に応答して収縮し、非刺激群では56%でした(各群N=9)。また、組織断面における筋管占有率は、同足場の非刺激群17%に対して刺激群31%となり、刺激群では縞状のα-actininを示す筋管も確認されました。

この結果は、同研究の細胞、足場、組織形状、刺激条件の組み合わせで得られたものです。C-Pace EMの使用によって、あらゆる培養肉モデルで同じ結果が得られることを保証するものではありません。一方で、C-Pace EMが実際の培養肉関連研究で3Dウシ筋組織への慢性電気刺激に使用された事例として、実験系を検討する際の有用な参考になります。







培養細胞電気刺激システム C-Pace EMとは

C-Pace EMは、培養インキュベーター内で細胞へ慢性的な電気刺激を与えるための、マルチモード・マルチチャンネル刺激装置です。別売りのカーボン電極C-Dishを一般的な培養ディッシュへ装着し、設定したプロトコルに従って細胞を刺激できます。


培養インキュベーター内で長期刺激

細胞を適切な温度・CO₂環境に保ったまま刺激できるため、数時間から複数日にわたる刺激条件の影響を検討できます。C-Pace本体はインキュベーター外に置き、フラットケーブルで内部のC-Dishと接続します。


ディッシュごとに異なる条件を設定可能

C-Pace EMには電源ボードが1枚内蔵され、最大8枚まで増設できます。1電源ボードにつき1ディッシュを接続し、各ディッシュに異なるプロトコルを設定できるため、刺激条件や細胞・足場条件の比較に適しています。


電気刺激条件をプログラム

電圧、周波数、パルス幅、刺激時間などを研究目的に合わせて設定できます。最大5ステップのシーケンスを組み、時間経過に伴って刺激条件を変更することも可能です。C-Pace Navigatorソフトウェアを使用し、Windows PC上のGUIからプロトコルを管理できます。


二相性刺激で電極付近の電気分解を低減

C-Pace EMは二相性の電気刺激を出力します。一方向へ電荷が偏り続けることを抑え、電極付近の電気分解を大幅に低減する設計です。ただし、電気分解、pH変化、発熱、細胞障害の可能性が完全になくなるわけではありません。各実験系での確認が必要です。


電気刺激と伸展刺激の組み合わせにも対応

別売りのC-Stretchと組み合わせると、電気刺激と機械的伸展刺激を同一プロトコル内で制御できます。電気刺激のみ、伸展刺激のみ、両者の併用を比較し、筋組織成熟に対する複合的な物理刺激の影響を研究できます。


主な仕様・構成

項目

内容

出力電圧

最大40 V

周波数

0.010~99 Hz

シーケンス

最大5ステップ

対応電極

C-Dishカーボン電極(別売り)

対応培養プレート

4~24ウェル用C-Dishを用意

電源ボード

標準1枚、最大8枚まで増設可能

制御

本体フロントパネル/C-Pace Navigator

機械刺激

C-Stretchとの併用に対応

※最新の仕様、対応プレート、必要な電源ボードおよび構成品は、オレンジサイエンスへお問い合わせください。



C-Pace EMで検討できる培養肉・筋組織研究

家畜由来筋細胞の分化・成熟条件の比較

ウシ、ブタ、ニワトリなどに由来する筋芽細胞や筋前駆細胞を対象に、電気刺激の有無による筋管形成、融合、筋原線維形成、成熟マーカー発現の違いを比較します。


C2C12を用いた予備検討

C2C12は刺激条件や評価系の予備検討に利用しやすい筋芽細胞株です。ただし、初代筋前駆細胞とは成熟度や刺激応答が異なる可能性があります。C2C12で候補条件を絞り込み、目的とする家畜由来細胞で再検証する段階的な設計が考えられます。


2D培養と3D筋組織モデルの比較

2D培養で細胞レベルの反応を評価した後、ハイドロゲルや足場を用いた3D培養へ展開できます。3D系では、電極との位置関係、組織厚、固定方法、酸素・栄養供給も含めて条件を設計します。


足場材料と電気刺激の組み合わせ評価

コラーゲン、フィブリン、食用候補素材を含む各種足場について、電気刺激への応答、筋管形成、配向、組織の収縮性を比較できます。なお、研究用足場で得た生物学的知見と、食用可能な材料を用いた製造工程は分けて検討する必要があります。


電気刺激と伸展刺激の併用研究

C-Stretchとの組み合わせにより、電気的入力と機械的負荷を個別または同時に与えられます。刺激の種類、順序、位相、頻度が、筋組織の構造・機能へ与える影響を検討できます。


刺激条件による代謝・機能応答の研究

刺激頻度、刺激時間、休止時間などを変え、糖代謝、ミトコンドリア関連指標、筋線維タイプ関連遺伝子、収縮応答などを評価する研究に利用できます。C-Pace EMは刺激を与える装置であり、これらの評価には目的に応じた分析装置やアッセイを別途組み合わせます。



電気刺激実験で検討したい評価指標

評価領域

指標の例

確認できること

生存性・障害

生細胞率、LDH、細胞剥離、形態変化

刺激強度や刺激時間が過剰でないか

分化・融合

Fusion index、MyoD、Myogenin、MHC

筋芽細胞から筋管への分化・融合

構造・成熟

筋管径・長さ、α-actinin、サルコメア、配向性

筋組織らしい構造の形成

機能

刺激応答率、収縮変位、収縮力、Ca²⁺応答

興奮収縮連関と機能的成熟

代謝

グルコース取り込み、乳酸、ATP、ミトコンドリア関連指標

刺激に対する代謝適応

食品特性研究

タンパク質量、加熱後物性、破断応力、保水性

組織形成と食品物性の関係

食品特性は、電気刺激だけで決まるものではありません。細胞組成、脂肪組織、細胞外基質、足場、含水率、加熱条件なども影響するため、筋細胞の成熟評価と食品物性評価を分けたうえで、両者の関係を解析することが重要です。



再現性の高い電気刺激研究に向けた5つのステップ

1.研究仮説と評価項目を決める

「筋管形成を促進したい」「収縮応答を持つ3D組織を構築したい」「足場材料と刺激条件の交互作用を調べたい」など、刺激を加える目的を明確にします。目的に合わせて、形態、分子、機能、代謝のどの指標を主要評価項目とするかを決めます。


2.比較対照を設計する

最低限、刺激群と非刺激群を用意します。必要に応じて、電極を設置して通電しないsham群、電気刺激のみ、伸展刺激のみ、両刺激の併用群を設定します。細胞ロット、播種密度、培地、足場、培養日数などは可能な限り揃えます。


3.小規模な予備試験で安全域を確認する

低い刺激条件から開始し、細胞剥離、細胞死、培地のpH変化、発熱、電極付近の気泡などを確認します。装置の設定電圧だけでなく、電極間距離を考慮した電場強度、培地の導電率、液量も記録します。


4.刺激条件と培養履歴を記録する

周波数、パルス幅、電圧、1日の刺激時間、刺激開始日、休止時間、培地交換、電極配置を記録します。C-Pace Navigatorを利用すると、複数ステップの刺激プロトコルを一貫して設定できます。


5.形態・分子・機能を組み合わせて評価する

単一のマーカーだけで結論を出さず、筋管形成、成熟マーカー、収縮機能、生存性を組み合わせて解析します。刺激条件の効果と足場・細胞種の効果を分離して解釈するため、十分な反復と適切な統計解析も必要です。



培養肉研究でC-Pace EMを使用する際の注意点

細胞種による応答差

C2C12、初代筋前駆細胞、動物種の異なる細胞では、分化能や電気刺激への感受性が異なります。既報の条件は出発点として利用し、目的の細胞で用量反応と時間依存性を確認してください。


設定電圧と電場強度は同じではありません

細胞が受ける電場は、装置の設定値だけでなく、電極間距離、培地、液量、電極形状、組織の配置に左右されます。論文に記載されたV/mmと装置のV設定を単純に置き換えないことが重要です。


刺激の開始時期と総負荷

分化前、筋管形成初期、成熟期では刺激への反応が異なります。強度だけでなく、刺激開始日、1日の刺激時間、連続刺激か間欠刺激か、総刺激日数を含めて最適化します。


3D組織では物質輸送も考慮

組織が厚くなると、酸素や栄養の拡散制限が生じます。電気刺激で収縮や代謝活動が増える可能性も考慮し、組織厚、培地交換、灌流、酸素供給などを別途検討します。


研究用機器と食品製造工程を区別

C-Pace EMおよび周辺構成品は研究用です。研究段階で得られた刺激条件を食品製造へ展開する場合は、スケールアップ、食品接触材、衛生管理、法規制、工程バリデーションを別途検討する必要があります。



よくある質問

培養肉研究における電気刺激とは何ですか?

培養中の筋細胞または筋組織に制御した電気パルスを与え、分化、筋管形成、成熟、収縮応答、代謝などへの影響を調べる方法です。生体内で筋肉が受ける神経由来の電気的入力の一部を、in vitroで模倣する物理刺激として研究されています。


C-Pace EMは培養肉研究に使用できますか?

はい。C-Pace EMを使用してウシ筋細胞を含む3Dハイドロゲル構造体へ慢性電気刺激を加え、収縮可能なウシ筋組織の形成を検討した査読論文が報告されています。ただし、使用可否や必要な電極構成は、細胞、培養容器、2D・3Dの別、組織形状によって異なります。


どのような細胞を刺激できますか?

オレンジサイエンスの製品ページでは、骨格筋細胞、C2C12、心筋細胞、iPS心筋細胞、平滑筋細胞などの使用例が紹介されています。培養肉研究で家畜由来の初代筋芽細胞などを用いる場合は、細胞特性に合わせた条件検討が必要です。


電気刺激とエレクトロポレーションは同じですか?

目的が異なります。C-Pace EMによる培養刺激は、筋細胞へ反復パルスを与え、収縮や長期的な細胞応答を誘導・研究することが主な目的です。一般的なエレクトロポレーションは、一時的に細胞膜の透過性を高め、核酸などを細胞内へ導入するために用いられます。


2D培養と3D培養の両方に利用できますか?

C-Dishを使用した一般的な培養プレート上の細胞刺激に加え、論文ではC-Pace EMによる3Dウシ筋組織への刺激例も報告されています。ただし、3D構造体の形状や固定方法によっては標準構成をそのまま使用できない場合があるため、事前にご相談ください。


電気刺激と伸展刺激を同時に与えられますか?

別売りのC-Stretchを組み合わせることで、電気刺激と機械的伸展刺激を制御できます。電気刺激のみ、伸展刺激のみ、併用条件の比較にも対応できます。


論文と同じ1 Hz・2 msの条件から始めればよいですか?

論文条件は参考になりますが、そのまま推奨条件になるとは限りません。細胞種、分化段階、電極間距離、培地、足場、組織サイズによって適切な条件は変わります。非刺激対照を置き、低負荷の予備試験から段階的に最適化してください。


C-Pace EMは培養肉の量産装置ですか?

いいえ。C-Pace EMは、培養細胞・組織への電気刺激条件を研究するための装置です。最大8枚の電源ボードを用いた複数ディッシュの条件比較には対応しますが、食品の商業生産用バイオリアクターではありません。



培養肉・筋組織への電気刺激をご検討の研究者の方へ

培養肉研究における電気刺激では、対象細胞、培養容器、足場、組織形状、必要な条件数によって、適切なC-Dishや電源ボードの構成が変わります。

お問い合わせの際に、以下の情報をお知らせいただくと、構成の検討がスムーズです。

  • 使用予定の細胞種・動物種

  • 2D培養または3D培養

  • 培養プレートの種類とウェル数

  • 足場・ハイドロゲルの有無と形状

  • 検討予定の周波数、パルス幅、刺激時間

  • 電気刺激のみ、またはC-Stretchとの併用

  • 同時に比較したい条件数


オレンジサイエンスでは、研究目的に応じたC-Pace EM、C-Dish、電源ボード、C-Stretchの構成をご案内します。



IonOptix社 C-Pace







参考文献・参考ページ

  1. Furuhashi M, Morimoto Y, Shima A, et al. Formation of contractile 3D bovine muscle tissue for construction of millimetre-thick cultured steak. npj Science of Food. 2021;5:6. https://doi.org/10.1038/s41538-021-00090-7

  2. Langelaan MLP, Boonen KJM, Rosaria-Chak KY, van der Schaft DWJ, Post MJ, Baaijens FPT. Advanced maturation by electrical stimulation: differences in response between C2C12 and primary muscle progenitor cells. J Tissue Eng Regen Med. 2011;5(7):529–539. https://doi.org/10.1002/term.345

  3. IonOptix. C-Pace EM. https://www.ionoptix.com/products/components/stimulators/c-pace-em/

  4. 産業技術総合研究所. 培養肉とは? https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/20250827.html




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