幹細胞由来心筋細胞の収縮性解析
- Orange Science
- 10月27日
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幹細胞由来心筋細胞の収縮性解析とは、幹細胞(主にiPS細胞やES細胞)から分化させた心筋細胞がどのように収縮(拍動)するかを定量的・定性的に評価する研究手法を指します。これは、再生医療や創薬スクリーニング、心疾患の病態モデル研究などで重要な評価項目です。

1. 目的
幹細胞由来心筋細胞は、ヒト心筋の機能を模倣できるため、次のような目的で用いられます。
心毒性評価(薬剤による拍動異常などの検出)
心疾患モデルの機能解析(遺伝子変異の影響など)
再生医療における細胞品質評価(移植前の機能確認)
2. 測定原理
収縮性解析では、心筋細胞が拍動するときの「力の発生」や「動きの変化」を検出します。代表的な解析方法には次のものがあります。
a. ビデオベース解析(Motion analysis)
位相差顕微鏡や蛍光顕微鏡で細胞の動きを撮影し、画像解析ソフトウェアで収縮・弛緩の周期、速度、振幅などを算出します。
b. 電気的活動との同時計測(MEA:多電極アレイ)
細胞の活動電位や拍動リズムを電気信号として測定し、収縮との関連を解析します。
c. 力学的測定(トラクションフォース、マイクロピラー法など)
細胞が基質に及ぼす力を物理的に検出し、収縮強度を定量化します。
d. カルシウムイメージング
蛍光カルシウム指示薬を用いて、収縮を引き起こす細胞内Ca²⁺濃度変化をリアルタイムで観察します。
3. 解析項目の例
拍動周期(beat period)
収縮速度(contraction velocity)
弛緩速度(relaxation velocity)
拍動振幅(contraction amplitude)
拍動の同期性(synchronization)
4. 解析による評価
幹細胞由来心筋細胞の収縮性解析により、
心機能を模倣したin vitroモデルとしての妥当性評価
薬剤の心臓への副作用(QT延長、収縮低下など)の検出
遺伝性心筋症やチャネル病の病態再現 などが可能になります。
幹細胞由来心筋細胞の収縮性解析は、ヒト心臓の機能を再現し、非臨床段階で心臓への影響を高精度に予測するための中核的技術と位置づけられています。
幹細胞由来心筋細胞 収縮性解析の研究分野
幹細胞由来心筋細胞の収縮性解析は、主に以下の分野で研究されています。これらはいずれも心筋細胞の機能評価や応答特性を通じて、人の心臓に関する理解や応用を進める目的を持っています。
1. 創薬・安全性薬理学分野
新薬候補化合物が心臓に及ぼす影響を評価するために用いられます。 特に、心毒性評価(心拍リズム異常、収縮力低下など)や、CiPA(Comprehensive in vitro Proarrhythmia Assay)のような国際的な薬剤安全性試験の一部として重要です。 ヒトiPS細胞由来心筋細胞を使うことで、従来の動物モデルでは検出できなかったヒト特異的な心毒性を予測できます。
2. 再生医療・細胞治療分野
心筋梗塞などで損傷した心筋を再生するため、移植用心筋細胞の品質評価として収縮性が解析されます。 収縮力や拍動リズムが安定しているかを確認することで、臨床応用可能な細胞製剤の安全性と有効性を判断します。
3. 疾患モデル研究
遺伝子変異を持つ患者由来iPS細胞を用いて心筋細胞を作り、収縮性を比較することで、
拍動異常(不整脈)
心筋症(肥大型・拡張型など)
イオンチャネル異常(チャネル病) などの病態メカニズムの解明に利用されます。
4. 毒性学・リスク評価分野
環境化学物質、重金属、ナノマテリアルなどが心機能に与える影響を解析する研究にも使われます。 ヒト由来心筋細胞を使うことで、より生理学的に近い安全性評価系を構築できます。
5. バイオエンジニアリング・バイオメカニクス分野
心筋組織工学や心臓チップ(Heart-on-a-chip)開発において、収縮性解析は不可欠です。 心筋細胞が微細加工デバイス上でどの程度の力を発揮するかを測定し、人工心筋組織の機能的成熟度を評価します。
6. 発生生物学・分化制御研究
幹細胞から心筋細胞へ分化する過程で、収縮性の発現タイミングや成熟度を調べることで、心筋分化の分子機構やシグナル経路を解析します。
まとめると、 幹細胞由来心筋細胞の収縮性解析は、 「創薬・毒性評価」+「再生医療」+「疾患モデル」+「組織工学」+「基礎生物学」 といった幅広い分野の交点にある研究領域です。
幹細胞由来心筋細胞 収縮性解析のアプリケーション例
幹細胞由来心筋細胞の収縮性解析には、基礎研究から応用研究まで多様なアプリケーションがあります。
1. 創薬・安全性評価分野
(1)心毒性スクリーニング
新薬候補化合物が心筋の拍動や収縮力に悪影響を与えないかを検証します。 たとえば、QT延長や不整脈の誘発リスクを評価するために、幹細胞由来心筋細胞の拍動周期や収縮振幅の変化を測定します。 → 国際的な安全性評価指針「CiPA(Comprehensive in vitro Proarrhythmia Assay)」でも活用されています。
(2)薬効評価
心不全や不整脈の治療薬候補の作用を、細胞レベルで評価します。 β受容体作動薬やCa²⁺チャネル遮断薬を投与し、収縮性変化を解析することで薬剤応答性の定量的比較が可能です。
2. 再生医療・細胞製剤開発
(1)移植用心筋細胞の機能評価
心筋再生治療に用いる幹細胞由来心筋細胞の品質を確認するため、収縮力・拍動リズムの安定性・同期性を解析します。 → 臨床応用前の安全性と有効性評価に必須の指標となっています。
(2)三次元心筋組織(Cardiac organoid)やシートの成熟度評価
3D培養や組織工学技術で作製した心筋組織の機械的機能の成熟度を測るために、収縮波形や力の発生を計測します。
3. 疾患モデル・病態解析
(1)遺伝性心筋症モデル
患者由来iPS細胞から心筋細胞を作り、収縮性を比較して病態を再現します。 例:肥大型心筋症(HCM)や拡張型心筋症(DCM)モデルで、収縮速度・振幅の低下を解析。
(2)チャネル病モデル
長QT症候群、カテコラミン誘発性多形性心室頻拍など、イオンチャネル異常による不整脈モデルで収縮パターンを評価します。
(3)代謝異常・虚血モデル
低酸素環境や高脂質培養条件下で、収縮性がどのように変化するかを解析し、心不全や虚血性心疾患の機序解明に応用します。
4. 環境毒性・化学物質評価
環境化学物質、重金属、農薬などが心筋収縮に与える影響を、ヒト由来心筋細胞を用いてスクリーニングします。 動物実験に代わるヒト生理学的リスク評価モデルとして注目されています。
5. バイオエンジニアリング分野
(1)Heart-on-a-chip(心臓チップ)開発
微細流路上に心筋細胞を培養し、収縮波形や力学的応答をリアルタイムで測定。 → 薬剤応答や電気刺激下での拍動制御を模擬するマイクロ生理システムの中核技術です。
(2)力学的刺激応答の研究
基質の硬さやストレッチ刺激に対する収縮性変化を評価し、心筋細胞の力学的適応メカニズムを解析します。
6. 発生生物学・分化研究
心筋分化の進行に伴う収縮発現時期や成熟度の定量化に利用されます。 これにより、分化誘導条件や培養環境の最適化を科学的に評価できます。
幹細胞由来心筋細胞の収縮性解析は以下のような幅広いアプリケーションを持ちます。
創薬・毒性スクリーニング
再生医療用細胞製剤の品質管理
遺伝性・後天性心疾患モデル研究
環境リスク評価
心臓チップ・人工心筋の開発
分化制御・成熟度評価
この解析技術は「心機能を模倣するin vitroモデルの中心的評価指標」として、学術・産業の両領域で広く利用されています。
幹細胞由来心筋細胞 収縮性解析への IonOptix社 CytoMotionシステムの活用
IonOptix社の CytoMotion(サイトモーション) システムは、幹細胞由来心筋細胞(hiPSC-CM や hESC-由来心筋細胞など)の収縮性をリアルタイムかつ高精度に評価するための装置/ソフトウェアです。
CytoMotion の主な特長・機能
ラベルフリー運動検出(label-free motion detection) 蛍光プローブを使わずに、明視野あるいはコントラスト差を画像上で捉え、ピクセル強度変化を追跡することで収縮運動を解析します。これにより蛍光指示薬による影響や光毒性などを抑えられる利点があります。
高時間分解能・空間分解能 典型的には 100 Hz 以上(最大条件では 1000 Hz に近づく)でサンプリング可能で、細胞の収縮/弛緩過程を細かく捉えることができます。
リアルタイムデータ取得 / 解析 撮像と同時に収縮運動の主要パラメータを取得可能で、ライブなフィードバックが可能です。 さらに、取得後の一括解析(バッチ処理)を支援するモジュールも用意されています。
定量可能な収縮パラメータ CytoMotion では、次のようなパラメータを定量できます。 - 最大収縮速度(max contraction velocity) - 最大収縮速度到達時間(time to max contraction velocity) - 収縮時間(time to peak, “percent peak” 時点までの時間) - 最大弛緩速度(max return/relaxation velocity) - 弛緩までの時間(time to relaxation / time to baseline) - 拍動頻度およびその変動性(beat frequency, variance)
拡張性・モジュール構成 CytoMotion は、IonOptix の他のシステム(例:MyoCyte システム、MultiCell システムなど)へのアドオン構成として導入可能です。既存装置との統合、あるいは単体システムとしての構成も可能です。
幹細胞由来心筋細胞研究での具体的な活用方法
以下は、CytoMotion を使って実際にどういった研究に応用できるかの例です。
iPSC-CM の収縮特性評価 未成熟な iPSC 由来心筋細胞は形態的コントラストが低く、収縮運動を捉えるのが難しいケースがありますが、CytoMotion はこのような細胞を対象に収縮運動を定量化できるよう設計されています。 例えば、成熟化培地(maturation medium)処理前後で収縮速度や弛緩時間がどう変化するかを比較する実験などが報告されています。
薬剤応答性の測定 β遮断薬、カテコラミン、イオンチャネル阻害薬などを投与して、収縮パラメータ(速度、時間、振幅など)がどう変化するかを定量できます。 実際、iPSC-CM に対して isoproterenol(β作動薬)を投与し、収縮運動変化を追うデモンストレーションが CytoMotion を用いて行われた例が報告されています。
成熟化条件や分化条件の最適化 培地組成、補助因子、機械的刺激、電気刺激など、分化・成熟化プロトコルを変えた際に、収縮運動特性がどう変わるかを見比べることで、最適条件を探索できます。
比較異常モデルとの比較 遺伝性心筋症モデル(変異 iPSC-CM)やチャネル異常モデルと、健常対照モデルとの収縮性比較に利用して、病態の機能的な違いを定量できます。
同期性・リズム異常の検出 複数のセル集団、またはシート状モデルで、拍動の同期性やばらつきを観察し、異常同期(不整脈様挙動)をモニタリングすることも可能です。
同時計測との併用 CytoMotion は収縮運動を定量するだけでなく、IonOptix の他のモジュール(たとえば蛍光カルシウム指示薬を使ったカルシウムトランジェント測定系、電気刺激制御系など)と組み合わせて、収縮・電気活動・カルシウム挙動を同期的に取得するような実験系を構築することもできます。
システムの利点
蛍光標識を用いないため試料への侵襲性が低く、繰り返し測定可能
高時間分解能により収縮・弛緩ダイナミクスを詳細に捉えられる
定量化可能な複数の収縮パラメータを取得できる
他システムとの統合性(拡張性)があり柔軟な運用が可能
IonOptix社 CytoMotionシステム

IonOptix社のCytoMotionシステムは、幹細胞由来心筋細胞の収縮性解析に最適化された革新的な解析プラットフォームです。特に、iPS細胞およびES細胞から誘導された心筋細胞(ヒトiPS細胞由来心筋細胞、ヒトES細胞由来心筋細胞)の収縮運動を高精度に可視化・定量化することが可能です。
CytoMotionは、高速イメージング技術と高感度解析アルゴリズムを組み合わせることで、心筋細胞の拍動速度、収縮振幅、リズム変動などの主要パラメータをリアルタイムに取得します。これにより、細胞の成熟度評価、薬剤応答解析、心毒性スクリーニングなど、多様な研究目的に対応できます。
また、ハイスループット測定や自動化ワークフローに対応しており、大量のサンプルを効率的に解析することが可能です。創薬研究や再生医療分野では、ヒト由来心筋細胞を用いたin vitro心機能評価ツールとして高く評価されており、再現性の高い定量データの取得を実現します。
IonOptix社のCytoMotionシステムは、幹細胞研究、創薬開発、毒性評価、再生医療といった幅広い分野で、信頼性の高い心筋機能解析を支援する最先端ソリューションです。
ー その他の製品紹介 ー
MyoStretcherシステム
MyoStretcher(マイオ・ストレッチャー)システムは、画期的な光学フォーストランスデューサーによって、心筋細胞の力を測定することができるシステムです。特に心筋細胞の測定用に設計されており、この分野では、現在最も精度が高いシステムと言えます。

C-Pace/ 筋細胞電気刺激培養装置
イオンオプティクス社のシーペースシステム(C-Pace EM)は、筋細胞へ電気刺激を与えながら培養することができるシステムです。4~24wellまでの専用電極(C-Dish)により、同時に大量の細胞へ電気刺激が可能で、バイポーラ波形の刺激により、電気分解を防ぎ、長時間の刺激培養が可能です。
設置も非常に簡単で、汎用培養プレート(※使用可能なリストはこちら)もそのままお使い頂けますので、装置に電源を接続するだけで、すぐにご使用頂けます!

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