薬効評価モデルを電気刺激で構築|心筋・骨格筋細胞の応答を創薬研究へ
電気刺激条件を制御し、薬剤による細胞機能の変化を捉える。
創薬・治療評価に用いる薬効評価モデルでは、候補化合物が細胞の生存率や分子発現に与える影響に加え、目的とする機能をどのように変化させるかが重要です。心筋細胞や骨格筋細胞の研究では、収縮や細胞内カルシウム動態、代謝応答などが、その機能を調べる手がかりになります。
IonOptix社のC-Pace EM(シーペース・システム)は、設定したプロトコルに従って培養細胞へ電気刺激を与える装置です。対応するカーボン電極C-Dishと組み合わせ、インキュベーター内で電気刺激を加えながら細胞を培養できます。
電気刺激の有無や刺激パターン、薬剤濃度、曝露時間を組み合わせることで、「同じ刺激条件で薬剤応答を比較する」「収縮活動に対する薬剤の作用を調べる」といった実験系の構築を支援します。収縮・蛍光・生化学解析などの測定系と組み合わせ、研究目的に合った薬効評価へつなげます。

薬効評価モデルとは|創薬・治療評価における電気刺激の役割
薬効評価モデルとは、候補薬剤や治療アプローチによって、目的とする生物学的な応答がどのように変化するかを調べる実験系です。細胞モデルでは、対象疾患や作用機序に応じて、使用する細胞、培養環境、負荷条件、測定指標を選びます。
電気刺激を取り入れると、培養細胞へ時間を制御した刺激を加え、その条件下で薬剤への応答を調べられます。心筋や骨格筋では、電気的な興奮と収縮、カルシウム動態、エネルギー代謝が関連するため、刺激条件も評価モデルを構成する要素になります。
例えば、心筋細胞の薬剤応答を調べる際には、拍動頻度の違いが測定結果の解釈に影響することがあります。電気刺激によるペーシングを活用し、実際に細胞が刺激へ追従していることを確認したうえで、一定の頻度条件で比較するという考え方があります。
薬効評価では「狙った機能変化が得られるか」、安全性評価では「望ましくない機能低下や異常が生じるか」を検討します。同じ収縮データやカルシウム応答を使う場合でも、評価目的と判定基準をあらかじめ定めることが重要です。
電気刺激条件下の細胞応答から、何を評価できるのか
電気刺激を加えた薬効評価モデルでは、刺激に対する機能応答と、薬剤による変化を組み合わせて解析します。対象細胞と作用機序に応じて、次のような指標を検討できます。
評価する細胞応答 | 測定指標の例 | 薬効評価で検討する問い |
|---|---|---|
収縮・弛緩 | 収縮変位、収縮・弛緩速度、収縮時間、刺激への追従性 | 薬剤によって収縮機能や応答の安定性がどう変わるか |
細胞内カルシウム動態 | カルシウムトランジェントの振幅、立ち上がり・減衰時間 | 興奮収縮連関に関わる応答がどう変わるか |
代謝 | グルコース取り込み、基質酸化、ATP、ミトコンドリア関連指標 | 収縮活動下のエネルギー利用や代謝応答がどう変わるか |
細胞内シグナル・分泌 | リン酸化、遺伝子・タンパク質発現、分泌因子 | 刺激に伴うシグナルや分泌応答に薬剤がどう作用するか |
細胞状態 | 生存率、細胞傷害、形態、筋管径、サルコメア構造 | 機能変化が細胞状態の変化を伴っているか |
これらは測定系を選ぶ際の例です。C-Pace EMは刺激条件を制御する装置であり、上記の指標を本体だけで測定する機能はありません。目的とする指標に応じて、動画解析、カルシウム蛍光測定、生化学アッセイなどを別途組み合わせます。
また、動画から得られる収縮変位と、力センサーなどで測定する収縮力は異なる指標です。研究で明らかにしたい作用に合わせて、測定方法とデータの意味を整理します。
心筋細胞・iPS細胞由来心筋細胞を用いた薬効評価モデル
拍動頻度を考慮して、収縮・カルシウム応答を比較する
心筋細胞やヒトiPS細胞由来心筋細胞(hiPSC-CMs)を用いる研究では、収縮機能やカルシウム制御に関わる薬剤応答を検討できます。電気刺激を用いてペーシング条件を設定し、薬剤添加前後の機能変化を比較することが一つの方法です。
実験では、設定した刺激頻度に対して実際の拍動が追従しているかを確認します。薬剤添加後に追従性が変わる場合には、その変化も記録し、収縮や蛍光のデータと合わせて解釈します。
複数の刺激頻度で比較する設計も考えられます。ただし、頻度を変えるだけでなく、細胞の成熟状態、培養日数、温度、培地、薬剤曝露時間をそろえ、頻度の違いと薬剤作用を評価できる条件を整えます。
電気刺激培養による細胞状態の変化を評価に組み込む
継続的な電気刺激は、心筋細胞の表現型維持や、培養中の機能を検討する研究に利用されています。そのため、刺激培養した細胞を薬効評価に用いる場合には、薬剤添加前の細胞状態を把握することが重要です。
「測定時に拍動を制御するための刺激」と「培養期間中に細胞へ与える刺激」では、実験上の役割が異なります。刺激を与える期間と薬剤を添加する時点を明確にし、刺激培養後の形態や機能を確認してから比較を進めます。
機能への作用と心毒性を併せて検討する
創薬研究では、期待する収縮機能の変化に加えて、細胞傷害や拍動異常などの望ましくない応答も確認します。機能の変化を生存率や細胞数と併せて調べることで、候補化合物の作用を複数の観点から検討できます。
電気生理学的な安全性評価を行う場合は、MEA(多電極アレイ)などの測定系が必要になります。培養基材、電極配置、刺激アーチファクト、同期方法の適合を個別に確認し、目的に合った構成を選定します。
骨格筋細胞を用いた薬効評価モデル|収縮活動と代謝応答を研究する
C2C12筋管・ヒト骨格筋細胞で収縮に伴う応答を調べる
骨格筋の研究では、分化したC2C12筋管やヒト由来筋管に電気パルス刺激(EPS:Electrical Pulse Stimulation)を与え、収縮活動に伴う細胞応答を調べる方法が用いられています。C-PaceシリーズとC-Dishを使用した研究も報告されています。
このような実験系は、筋細胞自体の収縮応答や代謝変化に着目したin vitroモデルです。培養細胞で得られる応答を、全身運動に伴う血流・神経・ホルモン応答と区別することで、研究で扱う範囲を明確にできます。
刺激と薬剤の組み合わせを比較する
EPSモデルを薬効評価へ応用する際には、研究目的に応じて、次のような実験を検討できます。
刺激あり・なしの条件で、薬剤によるグルコース取り込みや代謝指標の変化を比較する。
同じ電気刺激条件で、薬剤濃度による収縮応答や細胞内シグナルの違いを調べる。
筋管の形態や筋タンパク質発現を、収縮機能と併せて評価する。
刺激に伴う分泌因子の変化と、薬剤添加による変化を比較する。
これらは実験計画の検討例であり、特定の薬剤に対する効果や、疾患モデルとしての妥当性を保証するものではありません。採用するモデルについて、基準薬剤への応答、測定の再現性、対象とする作用機序との対応を確認します。
電気刺激と薬剤応答に関する研究例
C2C12筋管の収縮・代謝応答を調べた研究
Nedachiらは、電気パルス刺激を用いたC2C12筋管モデルについて、収縮活動、シグナル伝達、インスリン応答性などを検討しました。方法にはC-Pace 100とC-Dishの使用が記載されており、収縮に伴う筋細胞応答を調べるモデル構築の参考になります。
Nedachi T, Fujita H, Kanzaki M.C2C12筋管の電気刺激・収縮応答モデルに関する原著研究.Am J Physiol Endocrinol Metab(2008).DOI: 10.1152/ajpendo.90280.2008.https://journals.physiology.org/doi/abs/10.1152/ajpendo.90280.2008
ヒト筋管の代謝・遺伝子・タンパク質変化を調べた研究
Mengesteらは、ヒト筋管へのEPS後の代謝、遺伝子発現、細胞内・分泌タンパク質の変化を解析しました。研究の一つの刺激プロトコルではC-Pace EPとC-Dishを使用しています。酸化代謝の変化などが報告されており、機能指標と分子指標を組み合わせる研究設計の参考になります。
Mengeste AM, et al.電気パルス刺激後のヒト筋管の代謝・トランスクリプトーム・プロテオーム解析に関する原著研究.Front Physiol(2022)13:928195.DOI: 10.3389/fphys.2022.928195.https://www.frontiersin.org/journals/physiology/articles/10.3389/fphys.2022.928195/full
心筋の拍動頻度と薬剤応答を調べた研究
hiPSC-CMsへのイオンチャネル阻害薬の作用を、自発拍動と電気ペーシングの条件で比較した研究では、頻度・濃度に依存する薬剤応答の評価にペーシングが役立つことが示されました。
Effects of Electrical Stimulation on hiPSC-CM Responses to Classic Ion Channel Blockers.Toxicol Sci(2020)174(2):254–265.DOI: 10.1093/toxsci/kfaa010.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32040191/
この心筋研究は、電気ペーシングを薬剤応答評価に用いる考え方の参考です。C-Pace EMの使用実績を示すものではありません。また、上記の骨格筋研究はC-Paceの旧機種を用いた報告であり、C-Pace EMへ適用する際は、電極構成や刺激条件を確認する必要があります。
C-Pace EMで電気刺激条件を制御する

インキュベーター内で電気刺激培養を行う
C-Pace EMとC-Dishはフラットケーブルで接続します。電極を対応する培養容器へ設置し、細胞を培養しながら刺激を与える構成です。C-Dishには4・6・8・12・24ウェルなどに対応するタイプがあり、培養容器のメーカー・型番に合わせて選定します。
薬効評価の目的に合わせて刺激プロトコルを設定する
C-Pace EMは、電圧、刺激頻度、パルス幅の設定に加え、複数ステップや不規則なペーシングに対応します。二相性パルスを用いて電極での電気分解を抑える設計です。
主な機能 | 研究での使い方 |
|---|---|
電圧・刺激頻度・パルス幅の設定 | 細胞や電極構成に合わせて刺激条件を検討する |
最大5ステップのシーケンス | 異なる頻度の刺激や休止を組み合わせる |
不規則なペーシング・周期的な追加パルス | 規則的な刺激とは異なる条件で応答を調べる |
最大8系統の独立した出力バンク | 複数の電源ボードを用いて異なる刺激プロトコルを比較する |
C-Pace Navigator | Windows PCから刺激プロトコルを管理する |
TTL入出力 | 外部トリガーや他装置との連携を検討する |
出力バンク数は搭載する電源ボードの構成によって異なります。また、実際に設定できる刺激条件には、ウェル数や他のパラメーターによる制約があります。
刺激条件は電源ボード単位で設定する
C-Dishを用いる構成では同じ電源ボードに接続された各ウェルへ、共通の刺激プロトコルを与えます。ウェルごとに異なる刺激条件を設定する構成ではありません。複数の刺激条件を並行して比較する場合は、電源ボードの増設を検討します。
一方、同じ刺激条件で薬剤濃度や処置条件を比較する場合には、各ウェルに異なる薬剤条件を割り付ける設計が考えられます。必要なウェル数と刺激条件数を分けて整理すると、装置構成を検討しやすくなります。
伸展刺激を加える研究への拡張
電気刺激に加えて伸展刺激を検討する場合、C-Pace EMは別途C-Stretchと組み合わせる構成に対応しています。機械的負荷と電気刺激のタイミングを組み合わせる研究へ拡張できます。C-Dishによる電気刺激培養とは装置構成が異なるため、使用する細胞・培養基材に合わせて選定します。
薬効評価モデルを構築する5つのステップ
1.評価目的と細胞モデルを決める
収縮機能、カルシウム制御、代謝応答など、薬剤に期待する作用から主要評価項目を決めます。対象細胞の由来、分化・成熟状態、培養日数、基準薬剤への応答も確認します。
2.刺激条件を予備検討する
電極と培養容器の適合を確認し、電圧、頻度、パルス幅、刺激・休止時間を検討します。設定値を記録するとともに、実際の収縮や刺激への追従性、生存率を観察します。
同じ電圧設定でも、電極間隔、培地、容器の構成によって刺激環境は異なります。文献の条件を採用する際も、自施設の細胞と装置構成で応答を確認します。
3.刺激と薬剤を比較できる対照群を設ける
基本的な設計例として、刺激の有無と薬剤の有無を組み合わせた4条件があります。
条件 | 電気刺激 | 薬剤 | 比較で確認する内容 |
|---|---|---|---|
A:無刺激対照 | なし | 溶媒対照 | 刺激も薬剤も加えない基準応答 |
B:無刺激+薬剤 | なし | あり | 無刺激条件での薬剤作用 |
C:刺激対照 | あり | 溶媒対照 | 電気刺激条件下の基準応答 |
D:刺激+薬剤 | あり | あり | 電気刺激条件下での薬剤作用 |
AとB、CとDをそれぞれ比較し、刺激条件によって薬剤応答が変わるかを検討します。交互作用を評価する場合には、それに対応する解析を計画します。必要に応じて濃度系列、基準薬剤、独立した培養ロットなどを追加します。
無刺激群にも電極を設置するなど、刺激以外の環境差をそろえることも検討します。細胞数、筋管量、総タンパク質量などによる正規化は、測定指標に合った方法を選びます。
4.薬剤添加と測定のタイミングをそろえる
刺激前の前処置、刺激中の薬剤添加、刺激培養後の添加では、調べる作用が異なります。薬剤曝露時間、測定時の刺激条件、刺激終了から測定までの時間を統一し、実験記録に残します。
刺激中に機能を測定するのか、刺激培養後に別の測定系へ移して解析するのかも、事前に決めておきます。
5.機能指標と細胞状態を合わせて解析する
主要評価項目を、細胞生存率、形態、細胞数、分子指標などと併せて確認します。反応の大きさだけでなく、濃度依存性、時間依存性、培養ロット間の再現性を調べ、候補化合物の作用を検討します。
C-Pace EMを用いた薬効評価モデルに関するFAQ
C-Pace EMだけで薬効評価はできますか?
C-Pace EMは細胞へ刺激を与えるための装置です。薬効を判定するには、収縮、カルシウム動態、代謝、生存率など、目的に応じた指標を測定する装置・解析方法を組み合わせます。
心筋細胞と骨格筋細胞の両方に使用できますか?
心筋細胞、iPS細胞由来心筋細胞、骨格筋細胞、C2C12などに使用できます。使用する細胞の状態と電極構成に応じて、刺激条件を検討してください。
各ウェルで薬剤濃度と刺激条件を変えられますか?
各ウェルに異なる薬剤濃度を割り付ける設計は検討できますが、C-Dishの刺激プロトコルは電源ボード単位で共通です。異なる刺激条件を同時に与えるには、独立した電源ボードを用いる構成が必要です。
電気刺激を与えれば、細胞は必ず成熟しますか?
成熟や機能への影響は、細胞種、分化状態、培養条件、刺激プロトコルに依存します。刺激の有無で形態や機能を比較し、評価に用いる細胞状態を確認します。
電気刺激が薬剤応答へ与える影響は、どう見分けますか?
無刺激・刺激それぞれに溶媒対照と薬剤添加群を設け、同じ刺激条件内での薬剤作用を比較します。刺激条件による薬剤応答の違いを調べる場合には、細胞状態や測定時点をそろえた実験設計が必要です。
培養プレートはどれでも使用できますか?
C-Dishには対応するウェル数と培養容器のメーカー・型番があります。使用予定の容器について、C-Dishの適合情報をご確認ください。
薬効評価モデルの電気刺激培養を、オレンジサイエンスへご相談ください
電気刺激条件下での細胞応答を用いた薬効評価では、細胞モデル、刺激プロトコル、薬剤条件、測定指標を一体として検討することが重要です。
オレンジサイエンスでは、IonOptix社C-Pace EM、C-Dish、関連製品をご案内しています。導入をご検討の際は、使用する細胞、培養容器のメーカー・型番、同時に比較したい刺激条件数、測定したい応答をお知らせください。研究目的に合わせた装置構成についてご相談いただけます。

※本製品は研究用です。臨床診断・治療を目的とした機器ではありません。
参考文献
Nedachi T, Fujita H, Kanzaki M.C2C12筋管の電気刺激・収縮応答モデルに関する原著研究.Am J Physiol Endocrinol Metab(2008).DOI: 10.1152/ajpendo.90280.2008.https://journals.physiology.org/doi/abs/10.1152/ajpendo.90280.2008
Mengeste AM, et al.電気パルス刺激後のヒト筋管の代謝・トランスクリプトーム・プロテオーム解析に関する原著研究.Front Physiol(2022)13:928195.DOI: 10.3389/fphys.2022.928195.https://www.frontiersin.org/journals/physiology/articles/10.3389/fphys.2022.928195/full
Effects of Electrical Stimulation on hiPSC-CM Responses to Classic Ion Channel Blockers.Toxicol Sci(2020)174(2):254–265.DOI: 10.1093/toxsci/kfaa010.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32040191/
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