細胞増殖の観察・研究
- Orange Science
- 6月23日
- 読了時間: 8分
細胞増殖の観察・研究とは、「細胞が分裂して数を増やしていく過程」を可視化・定量化し、それに関わる仕組みを科学的に理解することを目的とした研究分野です。生命科学、医学、薬学、再生医療、がん研究など多くの領域で重要な基礎的テーマです。
研究の具体的な内容:
細胞増殖とは何か
細胞増殖(Cell proliferation)は、細胞分裂(主に有糸分裂)を通じて細胞の数が増えていく現象を指します。正常な組織の発達・再生、またはがん細胞の異常な増殖など、生体の様々な場面で起こります。
観察・研究の主な目的
細胞周期の解析(G1, S, G2, M期)
がん細胞の異常増殖のメカニズム解明
薬剤(抗がん剤や増殖因子など)の効果測定
再生医療における幹細胞の増殖能力評価
よく使われる手法・技術
BrdUやEdUの取り込み試験
DNA合成期(S期)の細胞を可視化する
Ki-67染色
増殖中の細胞をマーカータンパク質で識別
細胞数カウント
顕微鏡や自動細胞カウンターによる直接計測
MTS / WST / CCK-8アッセイ
細胞の代謝活性を用いて増殖を定量化
フローサイトメトリー
DNA量に基づく細胞周期解析や増殖率の評価
4. 応用例
がん研究:がん細胞の増殖能の解析、抗がん剤のスクリーニング
再生医療:幹細胞の増殖性・分化能のモニタリング
創薬:新規治療薬の増殖抑制効果を評価
発生生物学:胚発生中の細胞分裂のパターン観察
細胞増殖の観察・研究目的
細胞増殖の観察・研究を行う目的は、細胞の分裂・増加に関わる生命現象の理解や、それを応用した病気の診断・治療、再生医療などに貢献することです。以下に具体的な目的を分野別に整理します。
【1. 基礎生命科学】
目的:細胞がどのようにして増えるのか、その基本原理を解明すること
細胞周期(G1・S・G2・M期)の制御機構の解明
増殖に関わるシグナル伝達経路の理解(例:MAPK、PI3K/Aktなど)
幹細胞の自己複製と分化の関係性の解析
【2. がん研究】
目的:がん細胞の異常な増殖メカニズムを明らかにし、治療法を開発すること
正常細胞とがん細胞の増殖制御の違いを比較
抗がん剤の増殖抑制効果の評価
腫瘍の成長速度や治療抵抗性の理解
【3. 創薬・薬理研究】
目的:薬剤が細胞の増殖に与える影響を評価すること
薬効スクリーニング(例:抗がん剤候補の選定)
副作用の評価(正常細胞の増殖への影響)
個別化医療における患者由来細胞の反応性解析
【4. 再生医療・組織工学】
目的:損傷組織の修復に使う細胞の増殖能を評価・最適化すること
幹細胞の大量培養に必要な条件の検討
分化誘導前の細胞数の確保
生体材料や足場(スキャフォールド)上での増殖性確認
【5. 発生生物学】
目的:生物の発生過程での細胞分裂のパターンやタイミングを明らかにすること
胚発生中の器官形成における増殖の役割
特定領域での増殖速度の違いが形態形成に与える影響
【6. バイオ産業・細胞培養技術】
目的:大量の細胞を安定して増殖させる方法の確立
細胞株の生産性向上(抗体医薬、ワクチン生産など)
バイオリアクターでの細胞密度管理
栄養・酸素供給条件の最適化
細胞増殖の観察・研究のアプリケーション例
細胞増殖の観察・研究は、さまざまな実用的な目的やアプリケーションに応用されています。以下に代表的なアプリケーション例を分野ごとに紹介します。
1. 抗がん剤の評価・スクリーニング
目的:候補薬ががん細胞の増殖をどの程度抑えるかを確認する。
方法例:MTTアッセイ、EdU取り込み試験、細胞周期解析(FACS)など。
実用例:新しい抗がん剤候補をin vitroで評価 → 有望な薬を動物実験へ。
2. 再生医療用細胞の品質管理
目的:移植用幹細胞が適切に増殖できているか確認。
方法例:細胞カウント、Ki-67染色、タイムラプス顕微鏡観察など。
実用例:iPS細胞やMSC(間葉系幹細胞)の分裂能をモニタリング。
3. がん診断における増殖マーカーの使用
目的:腫瘍の悪性度や進行度を知るため、増殖活性を測る。
方法例:組織切片でのKi-67免疫染色(病理診断)。
実用例:Ki-67陽性率が高い乳がんは予後が悪く、治療方針に影響。
4. 薬物毒性の評価(安全性試験)
目的:薬剤が正常細胞の増殖を阻害しないかを確認。
方法例:WST-8アッセイや細胞数カウント。
実用例:化粧品や医薬品の開発時に行うin vitro毒性評価。
5. ウイルス感染や遺伝子改変の効果確認
目的:ウイルスや遺伝子操作が細胞の増殖に影響を与えるか調べる。
方法例:感染前後で細胞数の推移を観察。
実用例:がんウイルス療法やCRISPR操作後の細胞の挙動を解析。
6. 三次元培養やオルガノイドの成長評価
目的:生体に近い環境での細胞増殖の様子を研究。
方法例:蛍光イメージング、蛍光標識、ボリューム測定。
実用例:腸オルガノイドを用いた薬剤応答性の評価。
7. 創薬支援のための細胞モデル開発
目的:特定の疾患モデル細胞の増殖を定量し、スクリーニングに使う。
方法例:高コンテントスクリーニング+自動画像解析。
実用例:アルツハイマー病モデル細胞で神経突起の伸長と増殖を同時に評価。
細胞増殖の観察・研究に使用される装置
細胞増殖の観察・研究には、増殖の「可視化」「定量化」「分子レベルの解析」を行うために、さまざまな装置が使用されます。以下に主要な装置とその用途をまとめます。
倒立顕微鏡(位相差・蛍光)
細胞の形態・分裂の観察
生きた細胞をリアルタイムで観察可能。蛍光標識でS期やM期を追跡可。
タイムラプス顕微鏡システム
長時間にわたる細胞増殖の記録
細胞の分裂・移動を連続的に観察。
自動細胞カウンター
細胞数の定量
死細胞と生細胞の区別も可。
フローサイトメーター(FACS)
細胞周期やDNA量、Ki-67などの定量
PI, DAPI, BrdU, EdUなどを用いて細胞周期を解析。
プレートリーダー(マルチウェルリーダー)
WST-8, MTTなどの細胞増殖アッセイの吸光度・蛍光測定
96/384ウェルプレート対応、ハイスループットスクリーニングに有用。
リアルタイムインキュベーション+観察装置
培養しながら細胞密度や蛍光変化を連続測定
増殖曲線を自動記録できる。長期の観察に強い。
共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)
高解像度で細胞内構造や増殖マーカーを可視化
蛍光染色でKi-67やBrdUを局在的に観察。立体像も取得可能。
リアルタイムPCR装置(qPCR)
増殖関連遺伝子の発現解析
Cyclin, PCNA, Ki-67遺伝子などの発現量を測定。
Etaluma社 ライブセルイメージングシステム による細胞増殖の観察・研究
Etaluma社の Lumascope LS850 および LS820 は、細胞増殖の観察・研究に非常に有用なコンパクト型の倒立蛍光顕微鏡です。どちらもライブセルイメージングに対応しており、細胞のリアルタイム観察や定量的な分析に活用できます。
細胞増殖研究における活用例
1. タイムラプスによるリアルタイム増殖観察
目的:細胞がどのように増殖し、コンフルエンスに至るかを時間経過で記録。
活用:LS850/820はインキュベーター内で使用できるため、培養条件を保ったまま長時間のタイムラプス観察が可能。
応用例:がん細胞の増殖曲線の取得、薬剤処理後の増殖遅延の可視化。
2. 蛍光マーカーを用いた細胞周期・増殖の可視化
目的:EdU/BrdU取り込みやKi-67などの蛍光標識を観察。
活用:複数の蛍光色素を使った多重染色が可能。
応用例:S期細胞の比率計測、細胞周期マーカーの局在観察。
3. コンフルエンス(細胞密度)の測定
目的:増殖速度の指標として、面積に対する細胞占有率を測定。
活用:画像データをLumaviewソフトで取得し、画像解析ツールと連携して定量評価。
応用例:薬剤処理群と対照群の増殖比較、栄養条件の影響評価。
4. 細胞死・生存率の追跡
目的:薬剤処理やストレス下での細胞の死滅と回復過程を観察。
活用:蛍光標識と組み合わせて、生細胞・死細胞を識別。
応用例:抗がん剤処理後の細胞死の時間的推移を記録。
5. 幹細胞の分裂・分化追跡
目的:幹細胞の分裂頻度や分化に伴う形態変化を追跡。
活用:長期タイムラプス+蛍光観察により、非侵襲的に追跡可能。
応用例:MSCやiPS細胞の増殖モニタリング、蛍光レポーターによる分化の可視化。
細胞増殖の観察・研究に最適なコンパクト蛍光顕微鏡
近年、がん研究や再生医療、創薬開発などにおいて、細胞増殖の観察・研究はますます重要性を増しています。この分野における高精度かつ効率的な観察を実現するソリューションとして、Etaluma社のLS850とLS820をご紹介いたします。
Etaluma社のLS850およびLS820は、インキュベーター内での長時間タイムラプス観察に対応したコンパクトな倒立型蛍光顕微鏡です。高感度CMOSカメラを搭載し、細胞の形態変化や増殖状態をリアルタイムで非侵襲的に記録できるため、生理的条件を維持したままの観察が可能です。
青・緑・赤の3色蛍光チャンネルに対応しており、複数のマーカーを用いた細胞周期や分裂過程の解析、増殖観察に最適です。
細胞増殖を可視化・定量化するための信頼性の高いツールとして、Etaluma社のLS850とLS820は、研究効率の向上と高品質なデータ取得を強力にサポートいたします。

etaluma社 ライブセルイメージングシステム Lumascope

エタルマのLumascope(ルマスコープ)は、優れた感度、解像度、ゼロピクセルシフトを備えた、半導体光学の新しいコンセプトで設計された、倒立型小型蛍光顕微鏡です。
そのコンセプトのデザインにより、インキュベーター、ドラフトチャンバーなどの限られたスペースの中で使用でき、幅広いラボウエアでのライブセルイメージングを可能にします。
LS820 は、現行のモデルにオートフォーカス機能が追加され、低コストでのオートフォーカス3色蛍光観察が可能になりました。ソフトウエアも新しくなり、より簡単に、高画質な画像データの取得ができます。
LS850 は、現行の自動XYステージのついたLS720全自動モデルの改良版です。新たな位相差技術により、位相差照明をコンパクトにし、オプションのタレットにより、4つの対物レンズを搭載することが可能となりました。
各モデルの詳細は下記からご確認下さい。