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細胞内シグナル伝達の解析

  • Orange Science
  • 10月27日
  • 読了時間: 13分

細胞内シグナル伝達

細胞内シグナル伝達とは、細胞が外部や内部からの刺激を感知し、それに応答して特定の機能を実行するための情報伝達の仕組みです。具体的には、細胞膜上の受容体が成長因子、ホルモン、サイトカインなどの刺激を受け取り、その情報を細胞質内や核へと伝達します。この過程で、リン酸化やカルシウムイオン濃度変化、タンパク質間相互作用などが段階的に起こり、最終的に遺伝子発現や代謝活性、細胞運動などの応答が誘導されます。


ライブイメージング解析は、このシグナル伝達の動態をリアルタイムで可視化するための強力な手法です。蛍光タンパク質(例:GFP、RFP)やFRET(蛍光共鳴エネルギー移動)センサーを用いることで、細胞内の特定の分子やイオンの局在変化、活性化状態、相互作用を時空間的に追跡できます。たとえば、カルシウムシグナル伝達では、蛍光カルシウムインジケーター(GCaMPなど)を利用して、刺激に応じたカルシウム濃度の上昇や波動を可視化します。また、キナーゼ活性(例:ERK、AKTなど)のライブモニタリングでは、FRETベースのバイオセンサーを細胞内に導入し、刺激応答後の活性化の時間的推移を観察します。


これらのライブイメージング解析により、従来の固定細胞解析では捉えられなかった細胞内シグナルの速度、振動性、局所性、細胞間同期といった動的特性が明らかになります。これにより、細胞応答の多様性や、組織レベルでの情報統合メカニズムの理解が大きく進展しています。


細胞内シグナル伝達とライブイメージング解析

細胞内シグナル伝達の解析とは、細胞が外部刺激(成長因子、サイトカイン、薬剤、物理的刺激など)を受けて内部でどのように情報を伝達し、最終的にどのような応答(遺伝子発現、増殖、分化、アポトーシスなど)を示すのかを明らかにする研究手法です。解析の目的は、情報伝達経路の構成要素(受容体、セカンドメッセンジャー、キナーゼ、転写因子など)とその時空間的な動作を理解することにあります。


ライブイメージング解析は、その中でも特に時間的・空間的なシグナル動態をリアルタイムに観察できる解析法として重要です。細胞を生きたまま観察できるため、固定操作によって失われる一過的なシグナルの変化や、細胞間で異なる応答パターンを直接可視化することができます。


代表的なライブイメージング解析には以下のような方法があります。

  1. 蛍光タンパク質を用いた局在観察  GFPやRFPなどを融合したシグナル伝達分子を細胞内に発現させ、その移動や蓄積を追跡します。たとえば、NF-κBが刺激後に細胞質から核へ移動する過程を観察することで、シグナル活性化のタイミングを把握できます。

  2. FRET(蛍光共鳴エネルギー移動)センサーによる活性計測  ERK、AKT、Rho GTPaseなどの活性変化をリアルタイムで測定できます。蛍光信号の変化量を定量することで、刺激に応じた酵素活性の上昇や抑制の時間経過を解析します。

  3. カルシウムイメージング  カルシウム感受性蛍光プローブ(例:GCaMP)を用いて、刺激に対するCa²⁺濃度の上昇や波動、細胞間の同期的なシグナル伝搬を観察します。

  4. 多細胞スケールでのシグナル動態解析  ライブセル顕微鏡と画像解析ソフトウェアを組み合わせ、個々の細胞や集団内でのシグナル伝達の空間的パターンを解析します。これにより、細胞間相互作用や組織レベルのシグナル伝達ネットワークを理解できます。


このように、ライブイメージング解析を用いた細胞内シグナル伝達の解析は、単なる「オン・オフ」の検出ではなく、シグナルの強度・速度・周期性・局所性を定量的に捉えることを可能にします。その結果、複雑な細胞応答の制御機構を分子レベルで解明するための基盤的手法として広く利用されています。



細胞内シグナル伝達の解析の目的

細胞内シグナル伝達の解析の目的は、細胞が外部からの刺激をどのように受け取り、それをどのように内部で処理し、最終的にどのような応答を示すかを分子的・機能的に理解することです。 より具体的には、以下のような目的があります。


  1. シグナル経路の構造と機能の解明  受容体、セカンドメッセンジャー、キナーゼ、転写因子など、シグナル伝達を担う分子がどのように連鎖的に働くかを明らかにします。これにより、細胞が外界の変化に適応する仕組みを理解できます。

  2. シグナルの時空間的制御の理解  シグナル伝達は一瞬で終わるものではなく、時間的に変化し、細胞内の特定領域で局在的に生じます。ライブイメージング解析を通じて、活性化のタイミングや場所を可視化し、シグナルの「ダイナミクス(動態)」を把握することが目的の一つです。

  3. 細胞応答の多様性の解析  同じ刺激を与えても、細胞によって応答の大きさやタイミングが異なることがあります。ライブイメージングにより単一細胞レベルでシグナル挙動を解析することで、この「細胞間ばらつき」や「ノイズの生理的意味」を明らかにすることができます。

  4. 疾患の分子機構の解明と創薬応用  多くの疾患(がん、神経変性疾患、免疫疾患など)は、シグナル伝達経路の異常によって引き起こされます。シグナル解析を通じて病態の原因を特定し、標的分子や治療薬の作用点を明確化することが目的です。

  5. 細胞機能制御の設計と操作  シグナル経路の理解は、人工的に細胞の挙動を制御する技術(たとえば合成生物学や細胞治療)にもつながります。シグナル解析に基づき、意図的に細胞の増殖、分化、移動などを制御する基盤を構築することが可能です。


細胞内シグナル伝達の解析の目的は、「生命現象を情報処理の観点から理解し、その知見を医学・薬学・工学へ応用すること」にあります。特にライブイメージング解析は、そのための中核的な手段として、時間と空間の両面からシグナルの実態を明らかにする役割を担っています。


細胞内シグナル伝達解析の研究分野

細胞内シグナル伝達の解析は、生命科学の中でも非常に幅広い分野で研究されています。シグナル伝達はほとんどすべての細胞機能に関わるため、基礎生物学から医学、薬学、工学まで、多様な分野で重要な研究テーマとなっています。


  1. 分子細胞生物学  細胞内シグナル伝達研究の基盤となる分野です。受容体、キナーゼ、GTPase、転写因子など、シグナル伝達分子の構造や機能、相互作用、活性化メカニズムを分子レベルで解析します。ライブイメージング解析では、蛍光タンパク質を用いた動態観察やFRETセンサーによるリアルタイム活性測定が行われます。

  2. 発生生物学  胚発生や組織形成の過程で、細胞間のシグナル伝達がどのように空間的パターンを形成するかを研究します。Wnt、Notch、Hedgehog、TGF-βなどの経路が発生制御に重要であり、ライブイメージングにより発生中の細胞間シグナルの動態を観察します。

  3. 神経科学  神経細胞では、カルシウムシグナル、神経伝達物質受容体、シナプス可塑性に関連する経路などが解析対象です。カルシウムイメージングや蛍光センサーを用いて、神経活動とシグナル伝達の関係を可視化します。

  4. 免疫学  免疫細胞の活性化やサイトカイン応答、炎症反応の制御に関わるシグナル経路(NF-κB、MAPK、JAK-STATなど)が研究されます。ライブイメージングにより、免疫細胞の動的応答や細胞間相互作用を解析します。

  5. がん研究・腫瘍生物学  シグナル伝達の異常は、がん化の主要因の一つです。ERK、PI3K-AKT、JAK-STAT経路などの異常活性が腫瘍増殖や薬剤耐性に関与します。ライブイメージングによって、がん細胞内のシグナル応答や薬剤による抑制効果を時系列で観察します。

  6. 薬理学・創薬研究  薬剤が特定のシグナル経路に及ぼす効果を評価する目的で、シグナル解析が行われます。ライブイメージングを用いて、薬剤投与後のシグナル変化をリアルタイムに測定し、作用機序や効果持続時間を定量化します。

  7. 再生医療・幹細胞研究  細胞分化や自己複製の制御には、複雑なシグナルネットワークが関与しています。ライブイメージングにより、分化誘導時の経路活性変化や、微小環境からのシグナル応答を観察します。

  8. システム生物学・数理生物学  実験データをもとに、シグナル伝達ネットワークを数理モデル化し、情報処理としての細胞応答を定量的に解析します。ライブイメージングのデータは、このようなモデリングに欠かせない実測値を提供します。


細胞内シグナル伝達の解析は、「細胞がどのように情報を処理して生きているか」を理解するための中心的研究分野であり、その成果は基礎生物学の理解のみならず、医療や創薬、バイオエンジニアリングの発展にも直結しています。


細胞内シグナル伝達解析のアプリケーション例

細胞内シグナル伝達解析は、基礎研究から応用研究まで幅広い領域で活用されています。以下に、代表的なアプリケーション例をいくつか挙げます。


1. がん研究における薬剤応答の評価

がん細胞では、ERK、PI3K-AKT、JAK-STATなどのシグナル経路が異常に活性化していることが多く見られます。ライブイメージング解析を用いることで、抗がん剤投与後のシグナル活性変化をリアルタイムで可視化できます。 例えば、ERK活性を検出するFRETセンサーを用い、治療薬による経路抑制効果の持続時間や回復過程を単一細胞レベルで解析することが可能です。これにより、薬剤耐性機構の解明や最適な治療スケジュールの設計につながります。


2. 神経細胞におけるカルシウムシグナルの可視化

神経伝達や可塑性の基盤となるカルシウムシグナルを、蛍光カルシウムインジケーター(例:GCaMP)を使ってライブイメージング解析します。 これにより、シナプス活動、神経回路の興奮パターン、刺激応答の局在などを定量的に評価できます。脳スライスや培養神経細胞、さらには生体マウス脳内でのin vivoイメージングにも応用されています。


3. 免疫応答の動態解析

T細胞やマクロファージなどの免疫細胞が抗原刺激を受けた際、NF-κBやSTAT経路などのシグナル伝達が時間的にどのように変化するかをライブイメージングで観察します。 これにより、免疫細胞の活性化速度、サイトカイン産生開始のタイミング、細胞間の相互作用のパターンなどを明らかにし、免疫制御や炎症メカニズムの理解に貢献します。


4. 幹細胞分化過程のシグナル追跡

ES細胞やiPS細胞が分化する際には、Wnt、Notch、TGF-βなどのシグナル経路が時間的に切り替わります。ライブイメージング解析により、分化誘導の過程でどの経路がどのタイミングで活性化されるかを追跡できます。 これにより、分化制御メカニズムの理解や、分化誘導効率を高める培養条件の最適化が可能となります。


5. 機械的刺激応答(メカノシグナリング)の解析

細胞が外力(伸展、圧縮、流体せん断力など)を受けた際に、どのように内部シグナルが変化するかを解析します。 ライブイメージングにより、細胞骨格やカルシウム応答、YAP/TAZシグナルの動態をリアルタイムで観察できます。組織工学や心筋・血管研究などの分野で応用されています。


6. 創薬スクリーニング

FRETセンサーや蛍光レポーター細胞を用いて、化合物が特定のシグナル経路に与える影響をハイスループットにスクリーニングします。 ライブイメージング解析を自動化装置と組み合わせることで、薬剤作用の即時的・可逆的な効果を評価できます。


7. 感染症研究

ウイルスや細菌感染に伴う細胞内シグナル変化(例:NF-κBやIRF経路の活性化)をライブイメージングで可視化し、感染初期応答や免疫回避機構を解析します。 これにより、感染防御メカニズムや抗ウイルス薬の作用機序解明に役立ちます。


このように、細胞内シグナル伝達解析は、細胞の状態変化を「時間」と「場所」の両面から定量的に理解するための応用基盤として、医学・薬学・生物工学など多岐にわたる分野で利用されています。


細胞内シグナル伝達解析へのetaluma社 ライブセルイメージングシステム LS850の活用

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etaluma社の「LS850」は、細胞内シグナル伝達解析においてライブセルイメージングを高精度かつ効率的に行うためのプラットフォームとして活用でき、以下のような活用方法があります。


1. ライブセル観察によるシグナル動態解析

LS850は、蛍光観察・明視野・位相差観察に対応しており、細胞内で起こるシグナル伝達イベント(例:カルシウム濃度変化、キナーゼ活性化、転写因子の核移行など)をリアルタイムで可視化できます。 たとえば、蛍光プローブ(GCaMP、FRETセンサーなど)を用いた細胞内シグナルの時間的変動を、LS850で連続撮影することで、刺激応答の速度や振幅を定量的に評価することが可能です。


2. 長時間・安定的な観察環境

LS850はインキュベーター内部や自動培養システムと組み合わせて設置でき、温度・CO₂・湿度を一定に保ったまま長時間の撮影が可能です。これにより、成長因子刺激後のシグナル伝達経路の活性化から、転写・形態変化までの一連の過程を連続的に記録できます。


3. ハイスループットなデータ取得

LS850はマルチウェルプレート対応であり、複数条件のサンプルを同時に撮影できます。これにより、異なる薬剤処理、遺伝子ノックダウン、または異なる刺激条件下でのシグナル伝達動態を並列比較解析することが可能です。


4. 自動化・ロボットシステムとの統合

LS850はコンパクト設計で、細胞培養自動化ラインやロボットシステムと統合しやすいため、高再現性かつ省力的な解析環境を構築できます。これにより、シグナル伝達の経時変化を多数のサンプルで継続的にモニタリングする実験系が実現します。


etaluma社のLS850は、

  • シグナル伝達経路の時空間的可視化

  • 刺激応答の定量的評価

  • 自動化による再現性の高い解析

を可能にするライブセルイメージング装置です。細胞内シグナル伝達解析の研究において、高解像度・非侵襲・長時間観察を両立する強力なツールとして活用されています。


Etaluma社 LS850

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「Etaluma社のLS850」は、細胞内シグナル伝達の解析を高精度かつ効率的に行うことができる蛍光顕微鏡です。ライブセル観察に最適化された光学性能と自動化機能を備えており、細胞内で起こるシグナル伝達経路の動態をリアルタイムで可視化・定量化することが可能です。


また、LS850はインキュベーター内での長時間観察にも対応しており、温度・CO₂・湿度を安定的に維持した環境下で、細胞の生理的状態を損なうことなくライブイメージング解析を実施できます。これにより、刺激応答や薬剤処理に伴う細胞内分子の局在変化、タンパク質活性の時間的推移などを高い再現性で記録できます。


さらに、マルチウェルプレート対応によるハイスループット解析や、細胞培養自動化ラインとの統合も容易であり、研究効率を飛躍的に向上させます。 Etaluma社のLS850は、細胞内シグナル伝達の解析におけるライブイメージングの信頼性と操作性を両立した最適なソリューションです。







etaluma社 ライブセルイメージングシステム Lumascope


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 エタルマのLumascope(ルマスコープ)は、優れた感度、解像度、ゼロピクセルシフトを備えた、半導体光学の新しいコンセプトで設計された、倒立型小型蛍光顕微鏡です。


 そのコンセプトのデザインにより、インキュベーター、ドラフトチャンバーなどの限られたスペースの中で使用でき、幅広いラボウエアでのライブセルイメージングを可能にします。



LS820 は、現行のモデルにオートフォーカス機能が追加され、低コストでのオートフォーカス3色蛍光観察が可能になりました。ソフトウエアも新しくなり、より簡単に、高画質な画像データの取得ができます。


LS850 は、現行の自動XYステージのついたLS720全自動モデルの改良版です。新たな位相差技術により、位相差照明をコンパクトにし、オプションのタレットにより、4つの対物レンズを搭載することが可能となりました。 




各モデルの詳細は下記からご確認下さい。







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