細胞死の研究
- Orange Science
- 7 日前
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細胞死(アポトーシスやネクローシス)の観察・研究

Etaluma社 蛍光顕微鏡 ルマスコープで撮影された画像
細胞死の観察・研究とは、生体内で細胞がどのように死に至るのか、またその仕組みや影響を明らかにする研究分野です。大きく分けて、アポトーシス(計画的細胞死)とネクローシス(非計画的細胞死)という二つの代表的な細胞死の形態を中心に説明します。
アポトーシス研究の特徴
アポトーシスは、細胞が自身のプログラムに従って整然と死ぬ過程です。 特徴は以下の通りです。
カスパーゼ(caspase)活性化による制御された死
クロマチン凝縮、DNA断片化
アポトーシス小体の形成
炎症反応を起こしにくい
研究では、蛍光プローブ(Annexin V、caspase assay)、DNA断片化の検出、蛍光顕微鏡やライブセルイメージングによる時間経過解析などを用いて、その進行を評価します。
ネクローシス研究の特徴
ネクローシスは、外的ストレスにより細胞が急激に破壊される非計画的な細胞死です。
細胞膜の破裂
細胞内容物の放出
強い炎症反応を引き起こす
エネルギー枯渇や障害によって誘導される
研究では、細胞膜の透過性変化(PI染色など)、細胞形態の急激な変化、LDH放出量測定などにより評価します。
研究で重要な点
細胞死の種類を識別する(アポトーシスなのかネクローシスなのか)
どの分子経路が活性化しているかを解析する
薬剤、毒性物質、遺伝子改変の影響を定量化する
病態モデル(がん、神経変性、心血管、炎症性疾患など)との関連を調べる
なぜ研究されるのか
細胞死は多くの疾患の発症・進行に関与しています。例として、がんではアポトーシスの回避が重要な特徴となり、神経変性疾患では過度な細胞死が問題になります。そのため、細胞死研究は新規治療法、毒性評価、薬剤スクリーニングに不可欠です。
細胞死研究の目的
細胞死研究の目的は、細胞がどのように死に至るのか、その仕組み・制御・生体への影響を理解し、医学・薬学・毒性評価などに応用することです。主な目的は以下の通りです。
1. 疾患の発症メカニズムを理解する
アポトーシスやネクローシスの異常は、多くの疾患と関連します。
がん:アポトーシスの抑制により細胞が生き残り、腫瘍形成につながる
神経変性疾患:過剰な細胞死が神経細胞の喪失を招く
心血管疾患:虚血・再灌流傷害でネクローシスやアポトーシスが発生
炎症性疾患:ネクローシスによる炎症惹起が病態を悪化
細胞死の理解は、病気の成り立ちを説明する基盤となります。
2. 新しい治療法の開発
細胞死の経路を制御することは、治療戦略に直結します。
がん治療:アポトーシス誘導薬の開発
神経保護薬:不必要な細胞死の抑制
抗炎症治療:ネクローシス制御による炎症緩和
分子経路(カスパーゼ、Bcl-2ファミリー、死受容体など)を標的とした薬剤設計に応用されます。
3. 薬剤や化学物質の毒性評価
医薬品、環境化学物質、食品添加物などが細胞死を引き起こすかどうかは安全性評価に必須です。
アポトーシス活性化の有無
ネクローシスによる急性毒性
用量依存性や時間依存性の評価
細胞死を指標とした毒性スクリーニングが広く実施されています。
4. 細胞機能・生命現象の基本原理の解明
細胞がどのように自ら死を選択するのかは、生命科学における根本的な課題です。
恒常性維持
発生過程での不要細胞の除去
組織リモデリング
免疫応答の調整
細胞死は、生体機能の制御に不可欠なプロセスであり、その理解は生命科学の基礎研究の核心となります。
細胞死に関する研究分野
細胞死(アポトーシス、ネクローシスなど)の研究は、基礎生命科学から臨床医学、創薬、工学領域まで幅広い分野で行われています。主な分野は以下の通りです。
1. 分子生物学・細胞生物学
細胞死の分子機構、シグナル伝達、細胞内イベント(カスパーゼ活性化、ミトコンドリア機能、DNA損傷応答など)を解析する基礎研究が行われます。
2. がん研究
がんでは「アポトーシス回避」が腫瘍の特徴とされており、
アポトーシス誘導薬の探索
抗がん剤の作用メカニズム
抵抗性獲得機構 などの解析が行われます。
3. 神経科学
神経細胞の過剰なアポトーシスやネクローシスは、神経変性疾患の病態に深く関わります。
アルツハイマー病
パーキンソン病
脳虚血モデル といった分野で細胞死研究が重要です。
4. 心血管・代謝疾患研究
心筋虚血・再灌流傷害、糖尿病合併症などで細胞死が発生します。 疾病予防・治療の観点からメカニズム解明が行われています。
5. 炎症・免疫学
ネクローシスやネクロプトーシスにより、細胞内容物が放出されることで炎症応答が誘導されます。 免疫制御や自己免疫疾患の研究で重要です。
6. 創薬・毒性評価(毒性学)
化合物スクリーニング、医薬品候補の安全性評価で、
アポトーシス誘導性
ネクローシス毒性
細胞ストレス応答 を定量評価します。
7. 再生医療・組織工学
移植細胞・オルガノイド・人工組織の生存性やストレス応答を把握するために、細胞死評価が不可欠です。
8. 感染症学
ウイルスや細菌感染が細胞死を誘導するため、その病態解析や抗ウイルス・抗菌薬の研究で評価されます。
細胞死研究のアプリケーション例
細胞死(アポトーシス、ネクローシスなど)の研究は、多様な生命科学・医学領域で応用されています。
1. 抗がん剤の効果評価
抗がん剤がアポトーシスを誘導するかどうかを調べ、薬剤の効果・作用機序を明らかにします。
Annexin V/PI 二重染色
Caspase 活性測定
細胞周期・DNA断片化解析 がよく用いられます。
2. 毒性(トキシコロジー)研究
医薬品候補化合物や化学物質が細胞死を引き起こすかをスクリーニングします。
用量依存性の細胞死
ネクローシスによる急性毒性
ストレス応答の解析 などに利用されます。
3. 神経変性疾患モデルの解析
アルツハイマー病、パーキンソン病などのモデル細胞・モデル動物で、神経細胞の死やその経路を調べます。
酸化ストレス誘導アポトーシス
ミトコンドリア機能破綻による細胞死 などの評価が典型的です。
4. 心筋虚血・再灌流モデルの研究
心筋細胞で、低酸素ストレスや再灌流によるアポトーシス・ネクローシスを調べ、心筋保護薬の作用を評価します。
5. 免疫応答・炎症研究
ネクローシスやネクロプトーシスによって細胞内容物が放出されると炎症が起こります。 炎症性疾患や自己免疫疾患で、細胞死のタイプや程度を評価します。
6. ウイルス感染・病原体研究
多くのウイルスは宿主細胞に特有の細胞死を誘導します。
ウイルス増殖に伴うアポトーシス
細胞膜破壊による壊死 などの解析が行われます。
7. 再生医療・オルガノイド研究
移植細胞やオルガノイドの生存性評価に細胞死解析が必須です。
薬剤反応性
培養条件最適化
組織構造の維持 に関する研究で用いられます。
8. 機械的ストレス・環境ストレス研究
圧力、伸展、温度変化、酸化ストレスなどが細胞死を誘導するかどうかを調べます。 メカノバイオロジー領域での評価にも広く利用されます。
9. 開発生物学
発生過程での「プログラムされた細胞死(アポトーシス)」を解析し、形態形成や組織リモデリングの理解に役立てます。
細胞死研究への Etaluma社 イメージングシステム LS850 の活用

Etaluma社の LS850 は、コンパクトな高解像度蛍光イメージングシステムとして、細胞死(アポトーシス・ネクローシス)研究に適した特徴を備えています。以下では、細胞死研究における具体的な活用ポイントを整理します。
1. アポトーシスの可視化
アポトーシスを判定するための典型的な蛍光マーカーを LS850 で観察できます。
Annexin V(リン脂質外露出の検出)
Caspase 活性プローブ(caspase-3/7 など)
Hoechst/H33342 による核凝縮の観察
LS850 は高感度カメラと短い光路により、弱い蛍光シグナルも検出しやすい点が利点です。
2. ネクローシスの検出
ネクローシスでは細胞膜が損傷するため、膜非透過性色素が細胞内に入り込む現象を捉えられます。
PI(Propidium Iodide)
SYTOX Green などの染色で、膜破壊の程度を定性・定量的に観察できます。
3. ライブセルでの細胞死経時観察
LS850 は温度コントロールチャンバーとの併用で、ライブセルイメージングが可能です。
アポトーシスの進行(Annexin V → PI の時間経過)
ミトコンドリア膜電位低下(JC-1 など)
ストレス負荷後の形態変化
時間軸のある細胞死解析は、作用メカニズム研究で特に重要です。
4. ハイスループット性
LS850 はプレート対応で、マルチウェルプレートを用いた薬剤スクリーニングにも利用できます。
アポトーシス誘導薬の比較
用量依存性や時間依存性の解析
多種類化合物の細胞毒性評価
低メンテナンスかつ省スペースで、多検体の画像取得が可能です。
5. 多色蛍光による複合解析
LS850 は複数チャンネルを備えているため、以下のような多重解析が可能です。
Annexin V(緑)+PI(赤)の二重染色での細胞死分類
核染色との併用で形態変化解析
ミトコンドリア損傷マーカーとの複合評価
複数指標を同時に取得できる点は細胞死研究の精度向上に有利です。
6. 日常的な細胞死評価の効率化
LS850 はユーザーインターフェースが直感的で、習熟コストが低いことから、
毎日の細胞状態チェック
薬剤処理後のスクリーニング
実験条件の最適化 にスムーズに利用できます。
応用例動画
TNF-α 刺激による細胞死の進行を明視野で可視化
本動画では、HUVECs(ヒト臍帯静脈内皮細胞)に TNF-α を処理し、細胞死の進行をライブセルで観察した様子をご紹介しています。TNF-α は代表的なアポトーシス誘導因子であり、処理後の細胞は形態の収縮、付着力低下、核周辺の構造変化など、アポトーシス特有の初期反応を示します。その後、細胞膜の破綻やデブリ形成といった後期アポトーシスから二次ネクローシスに至る過程を明確に捉えることができます。
本動画は、細胞死が時間とともにどのように進行するのか、その形態変化を自然な状態で可視化する実例です。
LS850 による細胞死研究への展開
Etaluma社の「イメージングシステム LS850」は、このような細胞死の進行を、明視野だけでなく多色蛍光を用いて高精度に評価できるイメージングプラットフォームです。
Annexin V や Caspase 活性などのアポトーシスマーカー
PI や SYTOX によるネクローシス指標
核染色との併用での形態解析
ミトコンドリア機能変化の可視化
これらを組み合わせることで、アポトーシスからネクローシスへの移行を定性・定量の両面で把握することができます。
また、ライブセル環境を維持したまま経時的にイメージングできるため、細胞死の「プロセス」をそのまま捉えることが可能です。薬剤スクリーニング、毒性評価、作用メカニズム解析など、多様な研究用途に対応します。
細胞死研究をより正確に、よりシンプルに
本動画で示したような細胞死の形態変化は、研究の基盤となる重要な情報です。LS850 は、これらの変化をより高感度・高解像度で記録し、再現性の高いデータ取得を実現します。
コンパクトで使いやすい設計
高感度 CMOS カメラによる鮮明なイメージング
プレートベースでのマルチサンプル対応
長時間ライブセル観察が可能
細胞死の観察・研究に求められる機能を、1 台で網羅するイメージングソリューションです。
Etaluma社 イメージングシステム LS850

「Etaluma社のイメージングシステム LS850」は、細胞死の観察・研究を高精度かつ効率的に支援するコンパクト蛍光イメージングプラットフォームです。アポトーシスやネクローシスといった主要な細胞死プロセスを、多色蛍光によって明瞭に可視化でき、細胞の形態変化やシグナル分子の動態を詳細に解析できます。
LS850 は高感度カメラと最適化された光学系により、弱い蛍光シグナルも確実に捉えることができ、Annexin V や PI などの細胞死マーカーの検出において優れた再現性を発揮します。また、プレートベースでの運用に対応しており、薬剤スクリーニングや毒性評価など、多検体を扱う研究にも適しています。
ライブセルイメージングにも対応するため、アポトーシスからネクローシスへ移行する動的過程を時間軸で捉えることが可能です。細胞死研究に求められる定性・定量の両面を高いレベルで実現する LS850 は、基礎研究から創薬、毒性試験まで幅広い領域で価値を提供します。
細胞死のメカニズム解明や薬剤評価の精度を向上させたい研究者にとって、「Etaluma社のイメージングシステム LS850」は信頼性の高い選択肢となる装置です。
etaluma社 ライブセルイメージングシステム Lumascope

エタルマのLumascope(ルマスコープ)は、優れた感度、解像度、ゼロピクセルシフトを備えた、半導体光学の新しいコンセプトで設計された、倒立型小型蛍光顕微鏡です。
そのコンセプトのデザインにより、インキュベーター、ドラフトチャンバーなどの限られたスペースの中で使用でき、幅広いラボウエアでのライブセルイメージングを可能にします。
LS820 は、現行のモデルにオートフォーカス機能が追加され、低コストでのオートフォーカス3色蛍光観察が可能になりました。ソフトウエアも新しくなり、より簡単に、高画質な画像データの取得ができます。
LS850 は、現行の自動XYステージのついたLS720全自動モデルの改良版です。新たな位相差技術により、位相差照明をコンパクトにし、オプションのタレットにより、4つの対物レンズを搭載することが可能となりました。
各モデルの詳細は下記からご確認下さい。



