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心筋細胞の刺激培養と静水圧刺激

心筋細胞の刺激培養

心筋細胞を体内環境に近づけて培養するには、物理的、化学的、電気的な刺激を与える方法があります。電気的刺激は、心筋細胞の収縮を促進するために培養ディッシュに電極を設置し、一定の周波数と電圧で電気刺激を与えます。機械的刺激では、柔軟な基板上で培養し、基板を周期的に伸縮させることで収縮・拡張を模倣します。化学的刺激としては、ノルアドレナリンや成長因子などを添加し、細胞の分化や機能を調整します。また、3Dスキャフォールドやハイドロゲルを用いた三次元培養により、細胞同士の相互作用を再現し、より生理的な機能が得られます。さらに、流体システムを使った流体力学的刺激で血流の影響を模倣することも有効です。これらの方法を組み合わせることで、心筋細胞を体内に近い状態で培養できます。

心筋細胞に静水圧刺激を与えながら培養する方法

心筋細胞に静水圧刺激を与えながら培養するには、主に静水圧刺激培養システムやバイオリアクター、カスタムメイドの静水圧装置が使用されます。静水圧刺激培養システムは、圧力チャンバー内で細胞に正確な静水圧をかける装置で、コンピュータ制御により様々な圧力プロトコルを設定できます。バイオリアクターは、静水圧のほか温度や栄養供給もコントロールでき、多数のサンプルを同時に扱うことが可能です。カスタムメイドの静水圧装置は、特定の研究ニーズに合わせて設計され、独自のプロトコルが実行可能です。これらの装置は、実験条件や規模に応じて選択し、心筋細胞の培養に適した静水圧環境を再現します。

心筋細胞に静水圧刺激が必要な理由

心筋細胞に静水圧刺激を与えることには、以下のような理由と生理的意義があります。

生理的環境の再現

  • 心臓は常に血液による圧力や機械的ストレスにさらされています。静水圧刺激を与えることで、体内で心筋細胞が経験する圧力環境を再現し、細胞の正常な機能や挙動を模倣することができます。これにより、細胞の機能や応答がより現実的な状態で評価できます。

細胞の成長と分化の促進

  • 静水圧刺激は心筋細胞の増殖や分化を促進すると報告されています。適度な圧力刺激は、細胞の形態維持やサルコメア構造の発達を促し、収縮力の向上や成熟した細胞形態の形成を助けます。

細胞機能の向上

  • 静水圧刺激は、カルシウム動態の調整やイオンチャネルの発現を調整し、心筋細胞の収縮・弛緩機能を高めます。これにより、細胞の機能的な特性が強化され、実際の心筋のような応答が得られやすくなります。

研究モデルとしての価値向上

  • 再現性のある静水圧環境での培養は、創薬研究や疾患モデルの構築において信頼性の高いデータを得るために重要です。これにより、薬剤応答の評価や病態解明がより現実的な状況で行えます。

このように、静水圧刺激は心筋細胞の生理機能の再現と向上、そして実験モデルとしての価値を高めるために重要な役割を果たします。

心筋細胞研究のアプリケーション例

心筋細胞研究のアプリケーションには、基礎研究から臨床応用まで幅広い分野があります。以下にいくつかの代表的な例を挙げます。

心血管疾患のメカニズム解明

  • 心筋細胞は心血管疾患(例:心不全、心筋梗塞、心筋症)のモデルとして使用され、これらの疾患の病態メカニズムを理解するために重要です。遺伝子変異や細胞応答の解析により、疾患の進行や治療ターゲットを探ります。

創薬と薬理試験

  • 心筋細胞を用いて新薬の効果や毒性を評価することができます。特に、薬剤が心筋細胞の収縮機能や電気的活動に与える影響を評価することで、安全性や有効性を確認する重要なステップとなります。

再生医療と細胞治療

  • 患者自身の細胞を用いた心筋再生医療の研究が進んでおり、心筋梗塞後の心機能回復を目指した治療法が開発されています。iPS細胞やES細胞から分化誘導した心筋細胞を用いることで、失われた心機能の再生を図ります。

組織工学とバイオ人工心筋

  • 3D培養技術やバイオマテリアルを用いて、心筋組織を人工的に構築する研究が行われています。これにより、将来的には心臓の一部を置き換えることができるバイオ人工心筋の開発が期待されています。

個別化医療

  • 患者由来の心筋細胞を用いて、個々の患者に最適な治療法を選定する個別化医療の開発が進んでいます。特に、遺伝子疾患の患者から誘導された心筋細胞で薬剤応答を試験することで、最適な治療薬を見つけることが可能です。

これらのアプリケーションにより、心筋細胞研究は心血管疾患の治療法開発に重要な役割を果たしており、医療現場への応用が期待されています。

静水圧培養システム

静水圧培養システムは、細胞や組織に静水圧を加えながら培養する装置で、体内の物理的環境を再現するために使用されます。システム全体としては、圧力ポンプがチャンバーに圧力を供給し、センサーでその圧力をモニターしながら、コントローラーが圧力を調整します。この一連のプロセスにより、細胞が体内のような静水圧環境で培養され、研究の目的に応じた生理的応答を引き出すことができます。

​静水圧圧縮刺激装置 メカノカルチャーTR

ハイスループット静水圧刺激

メカノカルチャーTR(MCTR)は、個々のウェル内の9検体に対して静水圧圧迫を行います。最大500kPaまでの圧力を装置にプログラムすることができます。透明な培養ウェルにより、正しい検体の装填を目視で確認でき、必要に応じて試験中にリアルタイムで画像化することも可能です。 検体チャンバープレートは滅菌可能で、実験室のインキュベーター内での長期細胞培養に適しています。

​静水圧流体圧縮刺激装置

静水圧圧縮

静水圧圧縮は、培養ウェルを培地で上まで満たすことで達成されます。上部のチャンバーを加圧すると、フレキシブルメンブレンが下方にたわみ、液面に押し付けられます。

​静水圧流体圧縮�刺激・培養

特徴

  • 最大9ウェルまでの静水圧圧縮刺激

  • 0.5Hzで500kPaまでの圧力制御負荷

  • シンプル、周期的、断続的な刺激プロトコルを指定し、装置コントローラにアップロードするためのユーザーフレンドリーなインターフェースソフトウェア

刺激プロトコル

メカノカルチャーTRは、等速あるいは正弦波の圧縮パターンをプログラムすることができます。マグニチュード、周波数、休止時間、サイクルカウントはすべてソフトウェアアプリケーションで指定し、装置にプログラムすることができます。

​Preload, Stretch, Hold, Recover, Restの5フェーズで1サイクルとなり、それぞれのフェーズを秒単位で設定することが可能です。

刺激プロトコル

動画

実例紹介

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東北大学 大学院歯学研究科 分子・再生歯科補綴学分野  

山田将博先生にMCTRを使用頂いております。

機械的負荷による細胞間クロストークによる骨のターンオーバー活性と方向づけの研究の論文では、咀嚼負荷を再現するため、培養7日目のMLO-Y4細胞に対して最大49時間の周期的負荷に、CellScale社のMCTRが使用されました。

メカノカルチャーシリーズ 使用論文一覧

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