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脳スライス装置

  • Orange Science
  • 7月25日
  • 読了時間: 12分

脳スライス装置とは

脳スライス装置(brain slicer、またはvibratomeなどと呼ばれる)は、脳組織を一定の厚さで薄く切片(スライス)にするための研究用機器です。主に神経科学や病理学の分野で使用され、生きた組織(急性スライス)や固定組織の構造・機能解析、薬理学的実験、電気生理学的記録などに活用されます。



主な装置の種類と特徴


ビブラトーム(vibratome)

  • 振動する刃を使って生体組織を損傷少なくスライスできる。急性スライス(生きた組織)にも対応。

ミクロトーム(microtome)

  • 固定された組織を高精度で薄くスライス可能。パラフィン包埋切片などに利用。

クライオスタット(cryostat)

  • 冷凍された組織を薄く切る装置。凍結切片作製に使用される。


脳スライス装置の用途

  • 電気生理学(スライスパッチクランプなど)

  • カルシウムイメージング

  • 薬剤投与実験

  • 神経回路網の構造解析

  • 免疫染色・蛍光観察用標本の作製





脳スライス装置の目的

脳スライス装置の目的は、脳組織を一定の厚さで均一に切片化(スライス)し、構造的・機能的研究を可能にすることです。これにより、研究者は脳のミクロな構造や神経活動を精密に解析することができます。



1. 電気生理学的解析

  • スライスされた生体脳組織(急性スライス)を用いて、神経細胞の活動(電位変化やシナプス応答)を記録

  • 例:スライスパッチクランプ法、フィールド電位測定など。

2. 神経回路の可視化と解析

  • 神経細胞の形態・接続状態を蛍光染色や免疫染色で観察

  • 例:神経突起の分岐やシナプス構造の観察。

3. 薬理学的実験

  • スライスに特定の薬剤や化学物質を投与し、神経活動や細胞応答を評価。

  • 薬の作用機序の解明や中枢神経系への影響の評価に利用。

4. 病理学的研究

  • 神経変性疾患(例:アルツハイマー病、パーキンソン病)のモデル脳をスライスし、病変部位の観察や比較に使用。

5. 発達や可塑性の研究

  • 発達段階の異なる動物脳をスライスし、シナプス可塑性や発達変化を解析



脳スライス装置のメリット


脳スライス装置を使用するメリットは、生体に近い環境を保ったまま、脳の構造や機能を詳細に解析できることにあります。


1. 生理学的状態を維持したまま観察・記録が可能

  • 急性スライスでは、神経細胞が生きた状態で電気的活動を示すため、in vivo に近い環境での解析が可能です。

  • 例:シナプス伝達や発火パターンの観察。


2. 精密かつ再現性のある切片作製ができる

  • スライスの厚さや位置を正確にコントロールできるため、高い再現性と標準化が可能です。

  • 例:同じ動物種・同じ領域(例:海馬CA1)を複数実験で比較できる。


3. in vitro 実験の自由度が高い

  • スライスは外部からの刺激や薬物投与が容易で、厳密な条件制御下で実験が行えます。

  • 例:薬理作用、光遺伝学刺激、電気刺激など。


4. 複数の実験手法に対応

  • スライス標本は、以下のような多様な手法と組み合わせられます:

    • 電気生理学(パッチクランプ、フィールド記録)

    • イメージング(蛍光顕微鏡、カルシウムイメージング)

    • 分子生物学(免疫染色、in situ ハイブリダイゼーション)


5. 倫理的・実験的負担の軽減

  • 動物を安楽死後に使用する ex vivo 系であり、in vivo 実験より倫理的負担が少ない

  • 必要な脳領域だけを対象にでき、使用動物数の削減にもつながる場合がある。


6. 疾患モデル解析に有効

  • 神経変性疾患、脳損傷、薬物依存などのモデル動物から得た脳スライスを用いて、病態の電気生理的変化や組織変化を直接解析可能



脳スライス装置の活用分野


脳スライス装置は、主に神経科学を中心とするライフサイエンス分野で広く使用されており、脳の構造や機能、疾患メカニズムの解明に重要な役割を果たしています。


1. 神経科学(Neuroscience)

  • 中枢神経系の構造・機能解析 例:海馬・大脳皮質・小脳などの領域の電気活動解析

  • 神経回路のマッピング可塑性の研究(LTP/LTD)



2. 電気生理学(Electrophysiology)

  • パッチクランプやフィールド電位記録による、シナプス応答・発火活動の測定 例:ニューロンの応答性や神経伝達の変化を評価



3. 薬理学・神経薬理学(Pharmacology / Neuropharmacology)

  • 薬物をスライスに適用し、神経活動やシナプス機能への影響を評価 例:抗てんかん薬、抗うつ薬、麻薬などの作用評価



4. 神経病理学・神経変性疾患研究(Neuropathology / Neurodegeneration)

  • アルツハイマー病、パーキンソン病、ALSなどの疾患モデル動物の脳スライス解析 例:アミロイドβの蓄積やドパミン神経変性の可視化と定量



5. 発達神経科学(Developmental Neuroscience)

  • 発達期の脳スライスを使ったシナプス形成や神経成長の観察



6. 精神・行動神経科学(Behavioral / Psychiatric Neuroscience)

  • 行動実験後の脳スライスを用いて、記憶形成・情動・依存症メカニズムを解析



7. 光遺伝学・カルシウムイメージング(Optogenetics / Calcium Imaging)

  • 脳スライスを用いて光刺激応答やCa²⁺動態のリアルタイム観察



8. 神経免疫学(Neuroimmunology)

  • 炎症応答やミクログリアの挙動を、免疫染色したスライスで観察



脳スライス装置のアプリケーション例

脳スライス装置のアプリケーション例(具体的な研究用途)は非常に多岐にわたり、神経の構造、機能、疾患、薬剤応答などを精密にかつ柔軟に解析するために活用されています。


1. シナプス可塑性の研究

  • 海馬スライスを用いたLTP(長期増強)やLTD(長期抑圧)の誘導と測定

    • ➤ 学習・記憶の神経基盤を解明

    • ➤ 電気刺激によりシナプス強度の変化を記録



2. 薬物応答の解析

  • スライスに薬剤(例:NMDA、GABA作動薬、抗てんかん薬)を添加し、神経活動やシナプス伝達の変化を評価

    • ➤ 薬剤の作用機序、毒性評価、新薬候補スクリーニング



3. 神経疾患モデルの病態解析

  • アルツハイマー病モデルマウスの脳スライスでアミロイドβの蓄積や神経伝達異常を観察

  • パーキンソン病モデルラットの中脳スライスでドパミン神経の変性を評価



4. 光遺伝学実験

  • 脳スライス中で、チャネルロドプシン等の光感受性タンパク質を発現させた細胞を光刺激して神経応答を記録

    • ➤ 特定神経回路の機能解析



5. カルシウムイメージング

  • スライスにカルシウム指示薬(例:GCaMP)を使い、神経活動に伴うCa²⁺濃度変化を可視化

    • ➤ 神経ネットワーク全体の活動パターンの解析



6. 行動実験との併用

  • ラットに行動課題(学習・記憶)を行わせた後にスライスを作製し、神経活動の痕跡(engram)を解析

    • ➤ 行動と脳内活動の相関を評価



7. 脳損傷・虚血モデルの解析

  • 脳卒中モデル動物から得たスライスで、虚血領域の電気生理的・組織学的変化を評価

    • ➤ 再灌流傷害のメカニズム研究



8. 免疫染色や形態学的解析

  • スライスを固定し、神経細胞やグリア細胞の免疫染色を実施

    • ➤ 細胞構造や分布、特定タンパク質の発現解析




使用されるモデル動物(マウス・ラットなど)に応じた応用例


脳スライス装置を使用した研究では、マウスやラットなどのげっ歯類がもっとも一般的なモデル動物です。それぞれに特徴があり、研究目的に応じて使い分けられます。以下に、モデル動物別の応用例を紹介します。


マウスを使用した応用例

特徴

  • 遺伝子改変が容易(ノックアウト・トランスジェニックマウスなど)

  • 小型でコスト効率が高い

応用例

神経可塑性

  • 海馬スライスを用いたLTP(長期増強)・LTD(長期抑圧)の解析

遺伝子機能解析

  • アルツハイマー病モデルマウス脳スライスでのアミロイドβ蓄積の評価

光遺伝学

  • 光刺激による神経活動制御(チャネルロドプシン発現マウス使用)

カルシウムイメージング

  • 蛍光指示薬やGECI(例:GCaMP)による神経活動可視化


ラットを使用した応用例

特徴

  • 脳が大きく操作しやすい

  • 行動実験との併用がしやすい

  • ラットの方が神経生理の安定性が高いことが多い


応用例

電気生理学

  • 海馬CA1領域でのフィールド電位記録やパッチクランプ

薬理学

  • 脳スライスでの薬物投与によるドパミン神経の反応測定(例:中脳スライス)

行動神経科学

  • ラットに学習課題を与えた後、脳スライスで記憶痕跡のシナプス変化を解析

中枢神経損傷モデル

  • 脳卒中モデル後のスライスで虚血領域の電気的変化や炎症応答を観察



その他のモデル動物例

  • マーモセットやマカクザル:霊長類での神経回路研究(脳スライス装置の高精度な制御が必要)

  • ゼブラフィッシュ幼生:透明性を活かした全脳カルシウムイメージングやスライス解析




脳スライス作成装置 Precisionary社 Compresstome(コンプレストーム)


Precisionary Instruments社のCompresstome®(コンプレストーム)シリーズは、脳スライス作成において非常に優れた性能を発揮する高精度の振動式スライサー(vibratome)です。特に生きた脳組織(急性スライス)の作成に最適化されており、以下のような特徴と利点を持ちます。


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Compresstome® の脳スライス作成への活用ポイント


1. 高品質なスライス作成

  • 独自の圧縮チャンバー方式(組織を穏やかに前方へ押し出す)により、スライス中の組織の動きや振動を最小限に抑制

  • その結果、歪みが少なく、シャープで滑らかな切断面が得られます。



2. 急性スライス(生きた組織)の維持に優れる

  • 海馬や小脳皮質、大脳皮質などの繊細な脳領域でも、細胞の生存率・電気生理的活動性を高く保つスライスが作成可能。

  • パッチクランプやフィールド電位記録に適したクオリティの切片を安定供給。



3. 厚さの自由な調整

  • 厚めのスライスも容易に作製できるため、カルシウムイメージングや光遺伝学などの深部組織を必要とする実験にも対応。



4. スライス速度が速く、実験効率が高い

  • 一般的なバイブロトームと比較してスライス速度が高速で、時間依存的な組織劣化を抑制

  • 時間に制約のある急性スライス実験で特に有利。



5. 脳以外の臓器にも対応可能

  • Compresstomeは多用途設計であり、脳以外にも肺・腎臓・肝臓などの臓器スライスにも対応可能。

  • これにより神経と他臓器の相互作用研究にも活用可能。



研究アプリケーション例(脳スライス × Compresstome)

電気生理学

  • 海馬スライスでLTP誘導・パッチクランプ記録

神経薬理学

  • 脳スライスへの薬剤投与による神経応答評価

光遺伝学

  • チャネルロドプシン発現スライスでの光刺激記録

蛍光イメージング

  • 厚めスライスでのCa²⁺イメージングや神経構造可視化

脳疾患モデル解析

  • アルツハイマー・パーキンソン病モデルでの組織・電気変化の観察


Precisionary社 Compresstome の活用メリット

  • 生きた脳スライスの生存率・形態維持に優れる

  • 神経科学・薬理・イメージングなど多様な実験に対応

  • 実験効率とデータ再現性の向上に貢献



Precisionary社 Compresstome


Precisionary社の「Compresstome(コンプレストーム)」は、神経科学研究における高品質な脳スライス作成を実現する次世代型の脳スライス装置(脳スライサー)です。本装置は、独自の圧縮支持機構により、ラットをはじめとする実験動物の脳組織を安定かつ精密に切片化できる設計となっており、特にラット脳スライスの作製において優れた再現性と生存率を誇ります。


Compresstomeは、生体組織の歪みを最小限に抑えながらスムーズにスライスできるため、電気生理学的記録や薬理学的評価、蛍光イメージングなど幅広いアプリケーションに対応可能です。従来の振動式スライサーでは困難であった繊細な神経組織の切片化も、Compresstomeにより高い成功率で実現できます。


精度・スピード・組織保存性を兼ね備えた「Precisionary社 Compresstome」は、あらゆる脳研究において信頼できるソリューションを提供します。高品質なラット脳スライスの作成をご検討の際は、ぜひご検討ください。







組織切片作製ソリューション


Precisionary社のビブラトームを使用して、組織研究用の健康で生存可能な組織スライスを作成します。



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組織研究のための高品質で生存可能な組織スライスの入手

Precisionary Instruments 社のビブラトームは、サンプルの生理学的完全性を維持する正確で生存可能な組織切片を作成するように設計されており、下流の解析において最も信頼性の高いデータを確保します。


高精度振動ミクロトーム

Compresstome® VF-510-0Z は、サンプルの生存性と健全性を保ちながら、薄い組織スライスを作成するように設計されており、脳や肺の組織研究に理想的です。この完全自動システムは、研究で正確な結果を得るために重要な、組織切片の生理的完全性を確実に維持します。


アプリケーション

VF-510-0Zは、正確で迅速な切片作製を実現し、組織・細胞の健全性を保ちながら、組織研究のための最高品質の結果をサポートします。







アプリケーション


実験別


臓器


動物モデル



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アガロース包埋とは、Compresstome©振動型マイクロトームで組織切片を切り出す前に、組織試料をアガロース溶液で包埋することです。切片作製にかかる時間はほんのわずかで、より健康的で滑らかな組織スライドを作製できます。


Auto Zero-Z®テクノロジー

振動ヘッドは、Z軸方向の振動をなくすように正確に調整されています。Auto Zero-Z®テクノロジーは、生きた組織サンプルの表面細胞へのダメージを軽減し、薄切片のチャタリングを低減してイメージング結果を向上させます。


豊富なアプリケーション例

Precisionary社は、20年近くにわたり組織スライス装置を専門に扱ってきた会社です。免疫組織学や組織切片の培養、電気生理学や植物研究など、幅広いアプリケーションと引用実績があります。








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