バイオインクの力学特性評価|3Dバイオプリント構造体の圧縮・引張試験
「造形できる」だけでなく、造形後の構造体がどのように変形するかを定量評価
バイオインクの開発では、ノズルから安定して吐出できることや、積層した形状を維持できることに加え、架橋・造形後の構造体が目的に応じた力学特性を備えているかを確認する必要があります。
CellScale社のUniVertは、バイオインク由来のハイドロゲル、3Dバイオプリント構造体、スキャフォールドなどを対象に、圧縮試験・引張試験・繰返し試験・時間依存試験を行える卓上型の一軸力学試験システムです。
配合、架橋条件、造形方向、充填率、培養期間、含水状態などによって変化する構造体の力学応答を測定し、バイオインクの比較、造形条件の最適化、試料間・バッチ間の品質評価に活用できます。

バイオインクとは

バイオインクは、3Dバイオプリンティングやバイオファブリケーションで、生体機能を持つ三次元構造の作製に用いられる材料です。ハイドロゲルを基材とし、細胞や生体分子などを組み合わせた材料が広く研究されています。
厳密な学術的定義では、細胞を含む印刷用製剤を「バイオインク」、細胞を含まず造形後に細胞と組み合わせる材料を「バイオマテリアルインク」と区別する考え方があります(Groll et al., 2018)。一方、製品情報や研究現場では「バイオインク」がより広い意味で使われることもあります。本ページでは検索時の一般的な用法に合わせ、細胞含有バイオインクと、バイオインクから作製した構造体を中心に説明します。
代表的な材料には、次のようなものがあります。
ゼラチン、GelMA、コラーゲン系バイオインク
アルギン酸、アガロースなどの多糖系材料
PEGなどを利用した合成ハイドロゲル
ナノ粒子、繊維、無機材料などを含む複合バイオインク
細胞を内包した3Dバイオプリント構造体
材料ごとに架橋機構、含水率、粘弾性、強度、変形挙動が異なるため、目的組織や実験条件に合わせた評価が重要です。
なぜバイオインクの力学特性を評価するのか
バイオインクに求められる性能は、印刷時と印刷後で異なります。ノズル内では流動しやすく、吐出後には形状を維持し、さらに架橋後・培養中には目的に合った力学環境を保つことが求められます。
力学特性評価は、次のような研究課題に役立ちます。
配合や架橋条件の比較
ポリマー濃度、混合比、架橋剤濃度、光照射時間などが、弾性率、強度、破断挙動、粘弾性に与える影響を比較します。
造形条件と構造体力学の関連付け
ノズル径、積層方向、ストランド間隔、充填率、造形パスなどによって、同じ材料でも構造体としての変形挙動が変わる場合があります。材料そのものだけでなく、造形後の構造体を測定することで、実際の設計条件を反映した評価が可能になります。
形状保持性と取扱い時の安定性の確認
培地交換、搬送、切り出し、移植操作などを想定し、構造体が自重や外力に対してどの程度形状を維持できるかを検討します。
培養に伴う力学特性の変化の追跡
膨潤、分解、細胞によるマトリックス再構築、ECM産生などにより、構造体の力学特性は時間とともに変化する可能性があります。培養日数ごとに同一条件で測定することで、力学的成熟や劣化を比較できます。
試料間・バッチ間の再現性評価
同一配合や同一造形条件で作製した試料を比較し、製造工程のばらつきや再現性を定量的に確認できます。
重要:力学特性だけで細胞適合性や生物学的機能を判断することはできません。細胞生存率、増殖、分化、組織特異的機能などの生物学的評価と組み合わせて解釈することが重要です。
バイオインク評価におけるレオロジー試験と力学試験の違い
バイオインクの「評価」には、液状・ペースト状の製剤を対象とするレオロジー評価と、ゲル化・架橋・造形後の試料を対象とする力学試験があります。両者は競合する方法ではなく、異なる段階を評価する補完的な方法です(Hölzl et al., 2016; Paxton et al., 2017)。
評価段階 | 主な目的 | 代表的な評価項目 | 一般的な装置・方法 |
|---|---|---|---|
プリント前 | 吐出性や印刷条件の検討 | 粘度、せん断減粘性、降伏応力、チキソトロピー、回復性 | レオメーターなど |
プリント直後・架橋後 | 形状保持性とバルク力学特性の確認 | 圧縮弾性率、引張弾性率、強度、伸び、靭性 | UniVertによる圧縮・引張試験など |
培養・浸漬後 | 時間経過や環境による変化の確認 | クリープ、応力緩和、ヒステリシス、剛性・強度の変化 | UniVertによる保持・繰返し試験など |
UniVertはレオメーターではありません。 未架橋で自立しない液状バイオインクの流動性評価には、通常レオメーターなどを使用します。UniVertは、バルクゲル、成形試料、フィラメント、シート、架橋済み・造形済み構造体など、荷重を加えられる形状の試料に適しています。
UniVertで評価できるバイオインクの力学特性
圧縮試験
円柱状・立方体状のバルクゲルや3Dバイオプリント構造体を平行プレートで圧縮し、荷重と変位を記録します。試料寸法と適切な解析条件を設定することで、次のような指標を検討できます。
圧縮応力–ひずみ曲線
見かけの圧縮弾性率
圧縮強度
エネルギー吸収量・靭性
一定ひずみに対する応力緩和
一定荷重に対するクリープ変形
圧縮試験は、バルク状のハイドロゲル、円柱・立方体構造体、格子状スキャフォールドなどの比較に適しています。
引張試験
フィラメント、ストリップ、薄膜、シート状構造体などを把持して伸長し、引張方向の力学応答を評価します。
引張応力–ひずみ曲線
引張弾性率
最大引張強度
破断ひずみ・伸び
繰返し伸長時のヒステリシス
配向方向による力学応答の違い
柔らかく滑りやすい試料では、グリップ部での滑りや損傷が結果に影響します。試料形状と荷重域に合った治具の選択、必要に応じた画像ベースのひずみ測定が重要です。
クリープ・応力緩和などの時間依存試験
多くのハイドロゲルやバイオインク由来構造体は粘弾性的に挙動します。そのため、単一の弾性率だけでは材料特性を十分に表せない場合があります。
UniVertでは、ランプ、保持、多段階、繰返しなどの試験シーケンスを設定し、次のような時間依存挙動を評価できます。
一定荷重下で変形が進むクリープ
一定変形下で荷重が低下する応力緩和
負荷・除荷曲線のヒステリシス
繰返し負荷による剛性や残留変形の変化
局所的な硬さと空間分布の評価
オプションのインデンテーションツール、Eclipse超低荷重センサー、XYステージを組み合わせることで、試料表面の複数位置を測定し、局所的な硬さや不均一性を比較できます。
濃度勾配を持つ材料、架橋ムラの可能性がある構造体、複数材料を用いた造形物などの多点評価に活用できます。測定領域が非常に小さい場合や必要荷重がマイクロニュートン領域の場合は、試料条件によってMicroTesterが適することもあります。
バイオインク・3Dバイオプリント材料の評価にUniVertが適する理由
1. 柔らかい材料に合わせて荷重域を選択
UniVertは交換可能なロードセル/フォースセンサーに対応し、試料の予想荷重に合わせた構成を選択できます。Eclipse超低荷重センサーを組み合わせると、約0.02 Nからの超低荷重試験と、40 µNレベルの分解能に対応します。非常に柔らかいバイオインク由来ゲルや細胞含有ハイドロゲルでは、最大荷重だけでなく、目的とする荷重域で十分な分解能が得られるセンサーを選ぶことが重要です。
2. 圧縮・引張・時間依存試験を1台で構成
圧縮、引張、ランプ・保持、繰返し負荷などを共通のプラットフォーム上で実施できます。試料ごとに治具や試験プロトコルを変更し、材料配合から造形構造まで幅広く比較できます。
3. 液中・温度制御下で測定可能
オプションの横型または縦型メディアバスを使用すると、PBS、生理食塩水、培地などの液中で試料を測定できます。メディアバスは最大40℃までの温度制御に対応しており、37℃付近を含む条件で、含水状態を維持した試験を設計できます。内蔵ヒーターは温度制御を目的としているため、オレンジサイエンスではあらかじめ温めた液体の使用を案内しています。
ハイドロゲルは乾燥や膨潤、温度によって測定結果が変化しやすいため、実験目的に応じて浸漬時間、液組成、温度、測定開始までの時間を統一することが重要です。

4. 画像を利用したひずみ測定に対応
柔らかい試料では、装置のクロスヘッド変位と試料中央部の実際の変形が一致しない場合があります。科学イメージングシステムを追加することで、試料の特徴点を追跡したひずみ制御や、デジタル画像相関法(DIC)によるひずみ分布の評価に対応できます。
5. 試験設定、リアルタイム表示、解析をソフトウェアで管理
付属のLabJoyソフトウェアでは、変位制御・荷重制御、多段階シーケンス、繰返し試験を設定し、測定中のデータをリアルタイムで確認できます。取得データは、応力–ひずみ解析、粘弾性指標、条件間比較などに利用できます。
主なモデルと構成の目安
項目 | UniVert S | UniVert 1kN |
|---|---|---|
主な用途 | 柔らかい組織、ハイドロゲル、バイオインク由来構造体など | より高荷重となる構造体、デバイス、硬めの材料など |
最大荷重容量 | 200 N | 1,000 N |
対応する荷重域の目安 | 約0.02~200 N | 約0.02~1,000 N |
基本試験 | 引張、圧縮、保持、繰返しなど | 引張、圧縮、保持、繰返しなど |
主な追加構成 | Eclipse、メディアバス、イメージング、XYステージ、各種治具など | メディアバス、イメージング、各種治具、多軸構成など |
※対応荷重、分解能、試験速度、治具、環境制御は、モデルおよび選択するセンサー・オプションによって異なります。実際の構成は、試料形状、予想荷重、試験方法に基づいて選定します。
バイオインクの力学特性を比較する5ステップ
STEP 1 研究目的と比較因子を定める
配合、ポリマー濃度、架橋条件、印刷パラメータ、充填率、培養日数など、何の影響を比較するかを明確にします。評価指標も、弾性率、強度、破断、応力緩和などから目的に合うものを選びます。
STEP 2 試料形状と基準状態を統一する
直径、厚さ、長さ、断面積、積層方向、切り出し位置を統一します。造形物では、CAD上の寸法だけでなく、可能であれば測定時の実寸も記録します。
STEP 3 測定環境を揃える
架橋後から測定までの時間、浸漬時間、液組成、温度、乾燥防止方法を統一します。生理学的条件を想定する場合は、液中・温度制御下での測定を検討します。
STEP 4 荷重域と試験プロトコルを選ぶ
予想最大荷重に対して適切なロードセル/フォースセンサーを選びます。予荷重、変形速度、最大ひずみ、保持時間、サイクル数などを設定し、試料を破壊する試験か、非破壊に近い範囲で比較する試験かも明確にします。
STEP 5 同じ解析条件で比較する
弾性率を算出するひずみ区間、断面積の定義、応力・ひずみの計算方法、除外基準を統一します。柔らかい材料は非線形・粘弾性的に挙動するため、単一の弾性率だけでなく、曲線全体、強度、時間依存性も合わせて評価すると解釈しやすくなります。
UniVertを使用したバイオインク研究例
2026年に『ACS Applied Bio Materials』に掲載されたByrneらの研究では、電気活性組織工学およびバイオエレクトロニクスを目的とした、熱応答性・導電性ハイドロゲルバイオインクが検討されました。
研究チームは、CellScale UniVertと100 Nロードセルを使用して円柱状試料の非拘束圧縮試験を実施し、乾燥状態、PBSで水和した状態、PBS中・37℃の状態を比較しました。取得した応力–ひずみ曲線から、弾性率、最大圧縮強度、靭性が解析されています。
この事例は、バイオインクの力学特性が材料組成だけでなく、含水状態や測定温度にも左右され得ること、そして使用条件に近い環境を定めて比較することの重要性を示しています。
※上記は当該研究で採用された試験条件の紹介であり、すべてのバイオインクに共通する推奨条件ではありません。試料の材質、形状、予想荷重、研究目的に応じてプロトコルを設定する必要があります。
このようなバイオインク・3Dバイオプリンティング研究に

新規バイオインク配合の比較
GelMA、ゼラチン、コラーゲン、アルギン酸などのハイドロゲル評価
架橋剤濃度や光架橋条件の最適化
3Dバイオプリント構造体の圧縮弾性率・強度評価
フィラメントや薄膜状構造体の引張試験
造形方向や充填率による異方性・構造依存性の比較
液中・37℃付近における力学特性の評価
培養期間に伴う剛性、強度、粘弾性の変化の追跡
細胞含有ハイドロゲルと非含有材料の比較
多材料・濃度勾配構造体の局所的な力学評価
組織工学、再生医療、創薬用3D組織モデルの材料開発
よくある質問
バイオインクでは、どのような力学特性を測定できますか?
試料形状と試験方法に応じて、圧縮・引張応力–ひずみ曲線、弾性率、強度、破断ひずみ、靭性、クリープ、応力緩和、ヒステリシスなどを評価できます。算出できる指標は、試料形状、測定範囲、解析モデルによって異なります。
液状のバイオインクをそのままUniVertで測定できますか?
未架橋で自立しない液状・ペースト状材料の粘度、せん断減粘性、降伏応力などは、通常レオメーターで評価します。UniVertは、ゲル化・架橋後のバルク試料や、造形後に荷重を加えられる構造体の力学試験に適しています。
非常に柔らかいバイオインク由来ゲルにも対応できますか?
試料サイズと荷重域によります。UniVertにEclipse超低荷重センサーを組み合わせることで、約0.02 Nからの低荷重試験と40 µNレベルの分解能に対応できます。さらに微小な試料では、MicroTesterが適する場合もあります。
バイオインクをPBSや培地に浸したまま測定できますか?
オプションのメディアバスを使用することで、液中での引張・圧縮・時間依存試験を構成できます。使用する液体、温度、試料固定方法については事前確認が必要です。
37℃で測定できますか?
メディアバスは最大40℃までの温度制御に対応しています。37℃付近で測定する場合も、液温の安定化方法、試料の平衡化時間、測定中の条件を統一することが重要です。
細胞を含む3Dバイオプリント構造体も測定できますか?
形状と荷重域が適合すれば、細胞含有ハイドロゲルや3Dバイオプリント構造体を力学試験の対象にできます。使用する細胞、培地、試料容器、取扱い方法、安全管理を含め、具体的な実験条件を事前にご相談ください。
圧縮試験と引張試験のどちらを選べばよいですか?
円柱や立方体などのバルク状試料、格子状スキャフォールドには圧縮試験が選ばれることが多く、フィラメント、ストリップ、薄膜には引張試験が適する場合があります。実際の使用時に受ける負荷、試料形状、評価したい破壊モードから選択します。
架橋前後の力学特性を比較できますか?
両方の試料が治具上で荷重を加えられる形状を維持できる場合は比較できます。未架橋状態が液状で自立しない場合は、架橋前をレオロジー試験、架橋後をUniVertによる力学試験で評価するなど、方法を分ける必要があります。
構造体内の硬さのばらつきも調べられますか?
インデンテーションツール、Eclipse、XYステージを組み合わせることで、複数位置の測定や局所的な力学特性のマッピングを構成できます。必要な空間分解能と予想荷重により、UniVertまたはMicroTesterの適否を検討します。
弾性率は自動的に算出できますか?
付属ソフトウェアでは、試料寸法を用いた応力–ひずみ解析に対応しています。ただし、柔らかい材料では弾性率がひずみ範囲、変形速度、境界条件、解析モデルに依存します。研究目的に適した計算区間とモデルを定め、論文や報告書に条件を明記することが重要です。
バイオインクの試験条件に合わせた構成をご提案します
バイオインクや3Dバイオプリント構造体は、材料、形状、荷重域、含水状態によって適切なセンサー、治具、試験方法が変わります。
お問い合わせの際に、次の情報をお知らせいただくと、装置構成や試験方法を検討しやすくなります。
材料名・主成分と架橋方法
細胞の有無
試料の形状と寸法
想定する圧縮・引張荷重
評価したい指標
乾燥、湿潤、液中などの測定環境
測定温度
比較したい配合・造形・培養条件
予定している試料数と測定頻度
オレンジサイエンスでは、研究目的と試料条件を確認し、UniVert、Eclipse、メディアバス、イメージングシステム、XYステージ、各種治具などから適した構成をご提案します。

製品のご紹介
CellScale社 UniVert/卓上 引張・圧縮・3点曲げ試験機
生体サンプルから工業製品の試験に

CellScale社のUniVertは、生体サンプルなどのバイオマテリアル試験に最適です。クリップやプレートなど様々なアタッチメントに対応し、生体組織、ゲル、フィルム、ファイバーなどの多様なサンプルでの強度測定に優れています。
圧縮、引張、3点曲げなどのモードがあり、ロードセルは着脱式で、4.5N~200N(*1Kgモデルは1Kgまで)での測定が可能です。また、オプションのバスを取り付けることにより、横型、縦型での液中での測定も可能です。
MicroTester
マイクロスケール圧縮強度測定装置
MicroTesterはマイクロスケール生体サンプルや微粒子の粘弾性測定に特化した粘弾性測定装置です。
1㎜以下径のビーム(カンチレバー)とプレートで直接サンプルに接触して、非破壊で約0.005~500µNの粘弾性試験が可能です。生体サンプルの試験に特化し工業用の試験機では実現できないコンパクトさ、試験レンジを実現し、精度の高い試験・解析が可能となりました。チャンバー前方に取り付けられた高解像度カメラにより、サンプルの変位の画像解析も可能です。

オレンジサイエンスが取り扱うその他の製品
オレンジサイエンスでは、測定機器の他にも伸展刺激装置・圧縮刺激装置を取り扱っております。ご不明点や取り扱い装置に関する詳細など、お気軽にお問い合わせください。
CellScale/セルスケール社
Mechano Cultureシリーズの機械的刺激培養装置はモデルにより、360度伸展、シリコンチャンバー伸展、マテリアル伸展、流体圧縮、機械的圧縮+データ測定、マテリアル伸展+データ測定が可能です。

STREX/ストレックス社
独自のシリコンチャンバーを伸展させることにより、チャンバー上の細胞に伸展刺激を与えることが可能です。顕微鏡搭載モデルは、倒立顕微鏡での伸展細胞の観察も可能です。

IonOptix/イオンオプティクス社
C-Stretchシステムはシリコンチャンバーを採用した伸展培養装置です。C-Pace EMシステムと使用することにより、伸展刺激と同時に、電気刺激を与えることも可能です。




