クライオスタット
- Orange Science
- 8月28日
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更新日:9月2日
クライオスタットとは

クライオスタットとは、生体組織などの試料を凍結させた状態で非常に薄い切片を作製するための装置です。主に病理学、神経科学、組織学などの分野で使用されます。
仕組みとしては、試料を低温環境に保持したまま、内部に備えられた回転式のミクロトームで数マイクロメートル単位の薄片を切り出します。これにより、組織の構造をほぼ自然な状態で保ったまま顕微鏡観察や免疫染色などに利用できる切片が得られます。
通常、クライオスタット内はおよそ−20℃前後に保たれており、凍結による組織の硬化を利用して切片を安定して作成できます。パラフィン包埋などの化学的固定処理を行わずに迅速な観察が可能なため、手術中の迅速診断などにも広く応用されています。
クライオスタットを使用する目的
クライオスタットを使用する目的は、主に以下の点にあります。
迅速な標本作製 パラフィン包埋のような長時間の処理を行わずに、数十分以内に薄切片を作製できるため、手術中の迅速診断(術中迅速病理診断)に利用されます。
組織の自然な状態の保持 化学固定や脱水、包埋を経ないため、脂質や酵素活性など、パラフィン切片では失われやすい成分や構造を保持したまま観察できます。
免疫染色や蛍光観察への適用 抗体を用いた免疫組織化学、蛍光染色、in situ ハイブリダイゼーションなどに適しており、特にタンパク質や分子の局在を調べる研究に広く活用されます。
特殊成分の検出 脂質や水分など、パラフィン処理では除去されてしまう成分を残したまま観察できるため、代謝研究や病態解析にも有用です。
クライオスタットは「迅速かつ組織の自然な状態を保持した切片を得ること」を目的として使用されます。
クライオスタットを使用するメリット
クライオスタットを使用するメリットは以下の通りです。
迅速性 パラフィン包埋のような長い前処理を必要とせず、短時間で切片を作製できるため、手術中の迅速診断や研究における即時観察に役立ちます。
組織成分の保持 化学固定や脱水を行わないため、脂質や酵素活性、可溶性タンパク質などが保持され、分子生物学的解析や生化学的研究に適しています。
多様な応用 免疫染色、蛍光染色、in situ ハイブリダイゼーションなど、多様な手法に利用可能です。特に分子やタンパク質の局在解析に強みがあります。
低温環境での安定切片作製 凍結により組織が硬化し、やわらかい脳や脂肪組織など、通常のミクロトームでは扱いにくい試料も安定して薄切可能です。
手術支援 悪性腫瘍の境界確認や転移の有無を迅速に調べるなど、臨床現場での実用性が高いです。
クライオスタットは「短時間で」「自然な組織状態を保持した」切片を作製できる点が大きなメリットです。
クライオスタットが活用される分野
クライオスタットは、組織を凍結したまま切片を作製できるという特性から、臨床と研究の両方で幅広く利用されています。主な分野は以下の通りです。
医学・病理学
術中迅速病理診断(腫瘍の良悪性判定や切除範囲の確認)
臓器移植時の組織適合性の確認
病理組織学的解析全般
神経科学
脳や脊髄の構造観察
神経伝達物質や受容体の局在解析
脳疾患モデル動物の病態解析
免疫学・分子生物学
免疫組織染色によるタンパク質や抗原の局在確認
蛍光染色やin situハイブリダイゼーション
がん研究
腫瘍組織における分子マーカー解析
薬剤応答や転移メカニズムの研究
病態生理学・代謝研究
脂質や糖の分布観察(パラフィン処理では失われやすい成分を保持可能)
酵素活性の検出
要するに、クライオスタットは「迅速な診断が必要な臨床現場」と「組織成分を自然に保持したまま解析する研究分野」の両方で使用されています。
クライオスタットのアプリケーション例
クライオスタットのアプリケーション例には、以下のようなものがあります。
臨床での応用
術中迅速診断
手術中に腫瘍の良悪性や切除断端に腫瘍細胞が残っていないかを即時に確認する。
移植医療
臓器移植前に組織適合性や病変の有無を迅速に確認する。
研究での応用
免疫組織染色
タンパク質や抗原の局在を抗体で検出し、疾患や生理機能の研究に役立てる。
蛍光染色・蛍光イメージング
蛍光標識を用いて神経回路や細胞内構造を観察する。
in situ ハイブリダイゼーション
組織内のmRNAやDNA配列の局在を可視化して遺伝子発現を解析する。
脂質・代謝物の検出
パラフィン包埋では失われやすい脂質や代謝物を保持したまま解析する。
動物モデル研究
脳、心臓、肝臓などの凍結切片を作製し、病態モデルでの分子や構造変化を解析する。
このように、クライオスタットは「迅速診断」と「組織・分子レベルの解析」という両面で重要なアプリケーションを持っています。
動物モデルとクライオスタットを用いた具体的研究例
動物モデルと凍結切片作製用クライオスタットを組み合わせた研究例には、以下のような具体的なものがあります。
神経科学研究
アルツハイマー病モデルマウス アミロイドβやタウタンパク質の沈着を免疫染色で解析し、神経変性の進行や治療薬の効果を評価。
パーキンソン病モデルラット 黒質や線条体のドーパミン作動性ニューロンを凍結切片で染色し、神経細胞死や神経回路変化を調べる。
中毒・依存症研究
薬物依存モデルマウス コカインやアルコール投与後の脳切片で、ドーパミン受容体や即時早期遺伝子(c-Fosなど)の発現を免疫染色やin situハイブリダイゼーションで解析。
がん研究
移植腫瘍モデルマウス 腫瘍組織を凍結切片で解析し、血管新生マーカーや免疫細胞浸潤を免疫染色で評価。抗がん剤や免疫療法の効果判定に活用。
免疫学研究
自己免疫疾患モデルマウス(例:多発性硬化症モデルEAE) 脊髄や脳切片を作製し、T細胞やマクロファージの浸潤を観察。炎症性サイトカインやミエリン脱落の解析にも使用。
代謝・循環器研究
動脈硬化モデルマウス(ApoE欠損マウスなど) 血管組織の凍結切片で脂質沈着やマクロファージ浸潤をオイルレッドO染色や免疫染色で評価。
糖尿病モデルマウス 膵臓切片を免疫染色し、インスリン産生β細胞の数や機能変化を解析。
このように、クライオスタットは動物モデル研究において「脳・腫瘍・免疫・代謝」など幅広い領域で用いられ、分子や細胞レベルの変化を可視化する強力なツールになっています。
クライオスタットの代替としてのPrecisionary社 Compresstomeの使用

Precisionary社の Compresstome(コンプレストーム) は、特定の研究用途では凍結切片作製用クライオスタットの代替として利用できます。
Compresstomeの特徴
振動型スライサー(vibrating microtome・振動式ミクロトーム) に分類される装置。
組織を凍結せず、生体に近い状態のまま薄切片を作製できる。
試料を専用のゲルカラムに包埋し、機械的に安定させてからカットするため、やわらかい脳・脊髄・腫瘍などでも歪みの少ない切片が得られる。
クライオスタットの代替としての使用場面
凍結を避けたい研究
クライオスタットは組織を凍結させる必要があるため、凍結によるアーティファクト(氷結晶による細胞破壊)が生じる場合がある。
Compresstomeでは凍結を行わず、組織を生理的に近い状態で切片化できるため、組織の微細構造や細胞の生理活性を保持できる。
ライブスライス実験
脳スライスを用いた電気生理学実験(パッチクランプ、LTP/LTD解析など)
薬剤応答性やシナプス可塑性を調べる実験
免疫染色や蛍光イメージングにおいて、生体組織の分子局在をより自然な状態で解析する場合
柔らかい組織の切片化
クライオスタットでは崩れやすい組織(脳、脊髄、腫瘍、脂肪など)も、Compresstomeならゲル包埋と圧縮保持によって安定した切片が得られる。
クライオスタットとの違い
クライオスタット
迅速診断や酵素・脂質保持に優れる。
主に臨床病理や固定不要の免疫染色に用いられる。
Compresstome
凍結を伴わず、生理活性を保ったままの切片が得られる。
電気生理学やライブイメージングなど、研究用途に特化している。
Precisionary社のCompresstomeは、臨床現場での「凍結切片による迅速診断」の代替にはなりませんが、研究において「組織の自然な状態を保持したまま切片を得たい」場合にはクライオスタットの代替手段となり得ます。特に神経科学や薬理学の研究で強みを発揮します。
Precisionary社のCompresstomeによる切片作製

Precisionary社の Compresstomeは高周波振動するカッティングブレードで組織をスライスし、研究や臨床で使用する組織切片を作成するビブラトーム・振動式ミクロトームです。
Compresstomeの基本としくみ
高周波振動刃を用いた切片作製 装置 で、試料は寒天(低融点アガロース)に包埋され、円筒状のステンレス製のチューブ内に挿入されます。この構造により、サンプルが360度から圧縮されながら安定して支持され、滑らかな切片が得られます。
刃が垂直に動くため、従来の振動式マイクロトームで問題となる「押しつぶし」や「傾き」による組織の歪みが軽減されます。
自動化機能(Auto Zero-Z技術)により、Z軸振動が1マイクロメートル未満に抑えられ、高い切片の均一性と再現性を確保します。
主な利点と応用例
均質で凹凸の少ない切片 チャターマーク(表面の凹凸)が極めて少ない滑らかな切片を得ることができます。
幅広い組織・切断条件に対応 固定組織や生組織を問わず、温度(0~37℃)を柔軟に設定して切断可能。凍結不要のため、切片ごとのアーティファクトも減少します。 また、最小切片厚はモデルによって異なり、10µm(VF-510-0Z)や20µm(VF-210-0Z)、40µm(VF-800-0Z)まで調整できます。
多様な研究分野への応用
電気生理学研究:生きた脳スライスや神経組織の切片化に最適です。切片の形態と細胞の生理活性も保持されます。
免疫組織染色・in situ ハイブリダイゼーション、イメージング、臓器モデル切片、単細胞解析など幅広い応用分野があります。
オルガノイド、腫瘍切片モデルなどの高度な研究用途にも活用可能です。
精密切片のライブ培養や機能評価 Precision-Cut Tissue Slices(PCTS)を作成し、肺、腎臓、心臓、肝臓などの組織をライブスライスとして培養し、薬理・毒性・代謝などの研究に用いることができます。
切片作製の基本手順(概要)
試料を低融点アガロースで包埋し、円筒形のチューブに装入します。
冷却ブロックでアガロースを固化させた後、チューブ内から引き出しながら、垂直刃で切片を作成します。
推奨パラメータを設定し、不均一やビビリの発生を防ぎます。
Compresstomeは、クライオスタットのような凍結切片装置とは異なるアプローチであり、生体に近い状態での滑らかで再現性の高い切片作成に特化しています。
Precisionary社 Compresstome

「Precisionary社のCompresstome」は、高精度かつ効率的な切片作製を実現する先進的な装置です。従来の方法では難しかった組織の安定保持と均一な切片化を可能にし、研究者が必要とする高品質な切片を安定的に提供します。
特に生理学的研究や薬理学的研究、神経科学分野において、組織の形態や機能を損なわずに切片作製を行える点が大きな特長です。再現性の高いデータ取得を支援する本装置は、研究の信頼性向上と効率化に貢献します。
Precisionary社のCompresstomeは、切片作製における新たなスタンダードとして、多様な研究ニーズに応える最適なソリューションです。
組織切片作製ソリューション
Precisionary社のビブラトームを使用して、組織研究用の健康で生存可能な組織スライスを作成します。
組織研究のための高品質で生存可能な組織スライスの入手
Precisionary Instruments 社のビブラトームは、サンプルの生理学的完全性を維持する正確で生存可能な組織切片を作成するように設計されており、下流の解析において最も信頼性の高いデータを確保します。
高精度振動ミクロトーム
Compresstome® VF-510-0Z は、サンプルの生存性と健全性を保ちながら、薄い組織スライスを作成するように設計されており、脳や肺の組織研究に理想的です。この完全自動システムは、研究で正確な結果を得るために重要な、組織切片の生理的完全性を確実に維持します。
アプリケーション
VF-510-0Zは、正確で迅速な切片作製を実現し、組織・細胞の健全性を保ちながら、組織研究のための最高品質の結果をサポートします。
アプリケーション
実験別
臓器
動物モデル
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Auto Zero-Z®テクノロジー
振動ヘッドは、Z軸方向の振動をなくすように正確に調整されています。Auto Zero-Z®テクノロジーは、生きた組織サンプルの表面細胞へのダメージを軽減し、薄切片のチャタリングを低減してイメージング結果を向上させます。
豊富なアプリケーション例
Precisionary社は、20年近くにわたり組織スライス装置を専門に扱ってきた会社です。免疫組織学や組織切片の培養、電気生理学や植物研究など、幅広いアプリケーションと引用実績があります。
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