細胞死の進行をライブセルイメージングで捉える
フェロトーシス・ネクロプトーシス研究に、小型蛍光顕微鏡Lumascope
薬剤処理後、細胞死はいつ始まり、どのように進むのでしょうか。細胞集団の中で反応するタイミングに差はあるでしょうか。
細胞死研究では、特定の時点の測定値に加えて、処理から細胞死に至る経過を把握することが重要です。ライブセルイメージングは、細胞の形態と蛍光シグナルを継続的に記録し、変化が起こる順序や細胞ごとの反応差を検討するために役立ちます。
Etaluma社のLumascope(ルマスコープ)は、インキュベーター内で使用できる小型の倒立型蛍光顕微鏡です。培養を続けながらタイムラプス画像を取得し、細胞死の進行を時間軸に沿って観察できます。

細胞死研究で「時間軸」を評価する意味
例えば、24時間後の細胞死率が近い2つの処理条件でも、一方は早い段階から細胞死が進み、もう一方は長い遅延の後に増加している可能性があります。単一時点の結果が似ていても、細胞の応答過程は異なるかもしれません。
時系列画像を取得することで、次のような研究上の問いを検討できます。
評価したいこと | 時系列画像で検討する指標 |
|---|---|
いつ反応が始まるか | 処理後、形態変化や蛍光シグナル変化が現れるまでの時間 |
どの程度の速さで進むか | 膜非透過性色素陽性細胞の割合などの時間変化 |
細胞ごとの反応に差があるか | 個々の細胞で変化が起こる時刻の分布 |
阻害剤がどの段階に影響するか | 初期シグナルの変化、細胞死の遅延、観察期間内の発生割合 |
増殖抑制と細胞死を区別できるか | 細胞数・被覆率の変化と、細胞死を示す指標との対応 |
これらは実験設計のための評価例です。指標ごとに判定基準を定め、撮影間隔と観察期間が研究目的に適しているかを確認します。
フェロトーシス研究:脂質過酸化と細胞死の経過を追う
フェロトーシスは、鉄依存性の脂質過酸化が関与する制御性細胞死です。研究では、脂質過酸化の指標と細胞死の指標を組み合わせ、フェロトーシス阻害剤などに対する応答も確認します。
ライブセルイメージングでは、脂質過酸化に伴う蛍光シグナルの変化や、細胞膜の透過性が上昇するタイミングを追う実験が考えられます。例えば、誘導条件と阻害剤併用条件で、初期シグナルの変化と細胞死の発生時刻がどのように変わるかを比較します。
脂質過酸化プローブの一例であるC11-BODIPY 581/591は、酸化に伴って蛍光特性が変化します。酸化型・非酸化型の2色を用いた比率評価では、それぞれの励起・蛍光波長に合う光学構成が必要です。Lumascopeで使用する場合も、プローブのスペクトルと装置のフィルター特性を事前に照合します。
脂質過酸化の増加や一般的なROSシグナルだけで細胞死経路を確定することはできません。フェロスタチン-1などによる細胞死の抑制と、研究目的に応じた分子・生化学的検証を組み合わせ、フェロトーシスの関与を評価します。
ネクロプトーシス研究:膜障害の発生時刻と進行を比較する
ネクロプトーシスは、RIPK3とMLKLを主要な実行機構とする制御性細胞死です。細胞膜の透過性変化を伴うため、その発生過程を時系列で追うことが研究の一つのアプローチになります。
蛍光顕微鏡による観察では、PIやSYTOX Greenなどの膜非透過性核酸色素を用い、膜障害に伴って陽性となる細胞を捉える方法があります。長時間の連続観察には、色素の波長適合性に加えて、連続曝露が細胞に与える影響も検証します。
ネクロプトーシス研究では、例えば次のような評価を組み合わせます。
誘導条件ごとの膜透過性上昇の開始時刻
膜非透過性色素陽性細胞が増加する時間経過
阻害剤処理や遺伝子操作による応答の変化
別途採取した試料でのMLKLリン酸化などの経路検証
MLKLの膜への移行・蓄積と、ネクロプトーシスの進行速度や実行に必要な閾値との関係を検討した研究では、タイムラプス観察が用いられています。膜非透過性色素の陽性化は複数の細胞死で起こるため、経路依存性の検証と併せて解釈します。
ライブセルイメージングと経路検証を組み合わせる
蛍光画像は、細胞死に伴う変化を捉えるためのデータです。観察する指標と、そこから判断できる範囲を整理しておくことで、研究目的に合った評価系を設計できます。
観察・測定する指標 | 検討できること | 併せて確認すること |
|---|---|---|
明視野・位相差での形態変化 | 細胞の収縮、膨化、剥離などの経過 | 形態だけで細胞死経路を確定しない |
膜非透過性色素の陽性化 | 細胞膜障害の発生と進行 | フェロトーシス・ネクロプトーシスなどの経路依存性 |
脂質過酸化プローブの変化 | 脂質過酸化の動態 | 阻害剤応答、光照射やプローブ自体の影響 |
カスパーゼ活性プローブ | アポトーシス関連の応答 | 他の細胞死指標との対応 |
固定試料でのリン酸化MLKL検出 | ネクロプトーシス経路の活性化 | 生細胞で観察した時間経過との対応 |
複数のプローブを組み合わせる場合は、蛍光チャンネルの重なりを確認します。必要に応じて、別ウェルや並行試料で測定し、各指標を比較できる設計にします。
細胞死のタイムラプス観察を支えるLumascope
インキュベーター内で培養を続けながら観察
Lumascopeは、インキュベーター内への設置に対応するコンパクトな蛍光顕微鏡です。培養容器を繰り返し外に取り出す操作を減らし、培養を継続しながら観察する環境を構築できます。導入時には、使用するインキュベーターの設置スペースや運用条件を確認します。
蛍光シグナルと細胞形態を組み合わせて記録
LS850は、3色蛍光に加え、明視野・位相差観察に対応します。研究目的に応じた蛍光プローブのシグナルと形態変化を記録し、細胞の応答を複数の視点から検討できます。プローブを用いた評価は、対応する励起・蛍光波長を確認したうえで設計します。
複数条件の繰り返し撮影にはLS850
LS850は自動XYステージとオートフォーカスを備え、複数の観察位置を設定したタイムラプス撮影に対応します。薬剤濃度、誘導条件、阻害剤併用条件などを複数ウェルに配置する研究で、画像取得を自動化するために活用できます。
モデル | 主な機能 | 用途の目安 |
|---|---|---|
LS850 | 3色蛍光、自動XYステージ、オートフォーカス、電動Z | 複数ウェル・複数視野の時系列観察、条件比較 |
LS820 | 3色蛍光、オートフォーカス、電動Z | 選択した視野の継続観察を中心とする研究 |
LS820のオートフォーカスと電動Zは、タイムラプス観察に利用できます。ステージや位相差観察などの付属構成は、導入時にご確認ください。
画像取得と解析を目的に応じて構成
LS850・LS820では、LumaViewProを用いて画像やタイムラプスデータを取得します。細胞の検出・追跡などの解析には、有償オプションのLumaquantや、目的に応じた画像解析環境を組み合わせます。
取得した画像から細胞死の指標を定量化する場合は、対象物の検出、陽性判定、細胞追跡などの解析条件を設定します。Lumascopeの画像取得機能と、研究目的に必要な解析機能を合わせて検討することが大切です。


細胞死の時系列評価を設計する5つのステップ
以下は、Lumascopeによる観察を検討する際の実験設計例です。細胞種や誘導条件に応じて調整します。
1.比較する問いと条件を決める
「細胞死の発生が遅れるか」「観察期間内の発生割合が下がるか」など、評価したい問いを明確にします。未処理・溶媒対照、誘導条件、阻害剤併用条件、必要に応じた遺伝子操作条件を設定します。
2.観察指標とプローブを選ぶ
形態、膜透過性、脂質過酸化など、研究目的に対応する指標を選択します。プローブの波長、シグナルの重なり、長時間曝露への適合性を確認し、単独染色や対照条件で評価系を検証します。
3.撮影間隔と観察期間を設定する
細胞死の発生が予想される時間帯を含め、変化を捉えられる撮影間隔を設定します。撮影位置数、蛍光チャンネル数、露光時間、オートフォーカスに必要な時間を踏まえ、各位置をどの頻度で観察できるかを確認します。
4.時系列画像を定量化する
細胞や核を検出し、あらかじめ定めた基準で蛍光陽性を判定します。細胞の剥離や視野外への移動が結果に影響するため、総細胞数の定義と脱落細胞の扱いを統一します。
各時点の陽性割合と、追跡によって求める累積の細胞死イベントは異なる指標です。どちらを評価しているかを明記し、細胞増殖や蛍光退色の影響も検討します。
5.経路と持続的な効果を検証する
阻害剤応答、遺伝子操作、分子・生化学的測定などを組み合わせ、観察した変化がどの細胞死経路と関係するかを評価します。細胞死が遅延した場合は、必要に応じて観察期間を延長し、生存維持や処理後の回復も確認します。
Lumascopeを使用したフェロトーシス関連研究の例
Xiaらの「Ferroptosis Contributes to Isoflurane Neurotoxicity」では、初代培養神経細胞におけるフェロトーシスの関与が検討されています。
同研究では、Lumascope 720を用いてPI・Hoechst染色による細胞死評価、CellROXによるROS評価、TMREによるミトコンドリア膜電位評価の蛍光画像を取得し、ImageJで解析しています。GPX4の測定やフェロスタチン-1への応答も検討されており、画像と他の評価を組み合わせた研究例です。
使用機種は旧モデルのLS720です。現行モデルで同様の評価を検討する際は、使用プローブと装置構成に応じた条件確認が必要です。
Xia Y, Sun X, Luo Y, Stary CM. Ferroptosis Contributes to Isoflurane Neurotoxicity. Frontiers in Molecular Neuroscience. 2019;11:486. 論文本文
細胞死のライブセルイメージングに関するFAQ
蛍光顕微鏡だけでフェロトーシスとネクロプトーシスを判別できますか?
形態や膜非透過性色素の陽性化だけでは、経路を確定できません。画像による時系列評価に、阻害剤応答、遺伝子操作、分子・生化学的検証を組み合わせて判断します。
細胞数や被覆率が減った場合、細胞死と判断できますか?
細胞数や被覆率は、増殖抑制、剥離、移動などによっても変化します。細胞死の評価には、膜透過性などの指標と対応させて解釈することが必要です。
フェロトーシス用プローブは、すべてLumascopeで使えますか?
使用するプローブの励起・蛍光波長と、装置の光学構成を照合する必要があります。特にC11-BODIPYの酸化型・非酸化型の比率を評価する場合は、両方のシグナルを適切に取得できるかを確認します。
長時間の撮影で気をつけることはありますか?
撮影による光照射やプローブの連続曝露が、細胞の状態に影響する可能性があります。研究目的に必要な撮影頻度・光量・露光時間を検討し、撮影回数を減らした対照条件などと比較して影響を確認します。
細胞死研究に合わせたライブセルイメージングをご相談ください
オレンジサイエンスでは、Etaluma社Lumascopeを取り扱っています。使用する細胞、培養容器、蛍光プローブ、観察期間、比較したい条件数をお知らせください。
フェロトーシス・ネクロプトーシス研究をはじめ、細胞死の時系列観察に必要なモデルや構成、画像取得・解析の組み合わせについてご相談いただけます。

参考論文
Murray MB, et al. Protocol for detection of ferroptosis in cultured cells. STAR Protocols. 2023;4(3):102457. 論文情報/論文本文
Galluzzi L, et al. Molecular mechanisms of cell death: recommendations of the Nomenclature Committee on Cell Death 2018. Cell Death & Differentiation. 2018;25:486–541. 論文情報
Samson AL, et al. MLKL trafficking and accumulation at the plasma membrane control the kinetics and threshold for necroptosis. Nature Communications. 2020;11:3151. 論文情報/論文本文
Xia Y, Sun X, Luo Y, Stary CM. Ferroptosis Contributes to Isoflurane Neurotoxicity. Frontiers in Molecular Neuroscience. 2019;11:486. 論文本文
etaluma社 ライブセルイメージングシステム Lumascope

エタルマのLumascope(ルマスコープ)は、優れた感度、解像度、ゼロピクセルシフトを備えた、半導体光学の新しいコンセプトで設計された、倒立型小型蛍光顕微鏡です。
そのコンセプトのデザインにより、インキュベーター、ドラフトチャンバーなどの限られたスペースの中で使用でき、幅広いラボウエアでのライブセルイメージングを可能にします。
LS820

LS820 は、現行のモデルにオートフォーカス機能が追加され、低コストでのオートフォーカス3色蛍光観察が可能になりました。ソフトウエアも新しくなり、より簡単に、高画質な画像データの取得ができます。
LS850

LS850 は、現行の自動XYステージのついたLS720全自動モデルの改良版です。新たな位相差技術により、位相差照明をコンパクトにし、オプションのタレットにより、4つの対物レンズを搭載することが可能となりました。
各モデルの詳細は下記からご確認下さい。



