PCLSを用いた薬効評価
精密切断肺スライスによるex vivo肺モデルとphysioLens
PCLS(Precision-Cut Lung Slices:精密切断肺スライス)は、肺組織本来の構造や複数の細胞種、細胞間相互作用などを維持しながら解析できるex vivo肺モデルです。
従来の2次元培養細胞では再現することが難しい、気道、血管、肺実質などを含む肺組織の複雑な環境を保持できることから、呼吸器疾患研究だけでなく、候補化合物の薬効評価や作用機序研究にも利用されています。
特に、気管支拡張薬をはじめとする呼吸器系の候補化合物では、
薬剤投与前後の気道収縮・弛緩
濃度依存的な用量反応
気道過敏性
細胞内カルシウム動態
繊毛運動
肺血管の収縮・弛緩
などを組織レベルで評価することができます。
emka TECHNOLOGIES社のphysioLens™(フィジオレンズ)は、PCLSを用いた薬剤投与、イメージング、気道収縮解析などを自動化する研究プラットフォームです。
マウス、ラット、ブタ、ヒト由来の肺組織に対応し、PCLSを用いた薬効評価や呼吸器疾患研究の効率化と定量化を支援します。

PCLS(精密切断肺スライス)とは?
PCLSは、肺組織を一定の厚さに切り出し、培養環境下で維持する組織切片モデルです。
細胞単独の培養系とは異なり、肺組織に存在する複数の細胞種や細胞外マトリックス、気道や血管などの構造を保った状態で解析できることが大きな特徴です。
そのためPCLSは、単純なin vitroモデルと生体を用いるin vivo研究の間を補完するex vivo肺モデルとして、呼吸器研究や前臨床研究で活用されています。
同一個体・同一ドナーの肺組織から複数のスライスを作製することで、コントロール群と複数の薬剤濃度を比較するなど、条件を揃えた薬効評価にも利用できます。
なぜPCLSが薬効評価に利用されるのか?
肺組織本来の構造を維持した状態で評価できる
呼吸器疾患では、気道平滑筋、上皮細胞、血管、免疫細胞、肺実質など、多様な組織や細胞が相互に作用します。PCLSではこれらの構造を可能な限り維持した状態で実験できるため、培養細胞のみを用いた評価とは異なる、生体により近い組織レベルでの薬剤反応を観察できます。
気道収縮・弛緩を直接イメージングできる
喘息や気道過敏性などの研究では、薬剤による気道の収縮や弛緩そのものが重要な評価項目になります。PCLSでは気道を直接観察できるため、気道内腔面積の変化を指標として、アゴニストや候補化合物に対する反応を定量的に評価できます。
用量反応を評価できる
創薬研究では、「薬剤が作用するか」だけではなく、
どの濃度から作用するか
濃度上昇に伴って反応がどのように変化するか
複数化合物で反応性に違いがあるか
といった用量反応の評価が重要です。
physioLensでは自動薬剤投与機能とリアルタイムイメージングを組み合わせることで、PCLSを利用した用量反応試験を効率的に実施できます。
PCLS薬効評価を自動化するphysioLens
physioLensは、PCLS研究のために設計された自動イメージング・薬剤投与プラットフォームです。薬剤投与、位置決め、倍率調整、画像取得、画像解析など、PCLS薬効評価で繰り返し必要となる操作を統合しています。
自動薬剤投与
physioLensでは、6ウェルプレート内のPCLSに対して薬剤を自動投与できます。
投与システムは培地を短時間で交換できるよう設計されており、最大8種類の投与条件を設定できます。段階的に薬剤濃度を変更する用量反応試験など、複数条件を連続して評価する実験に適しています。
気道収縮をリアルタイム測定
撮影された気道画像から内腔の境界を自動検出し、管腔面積を算出します。
薬剤投与前後の管腔面積を比較することで、気管支収縮や気管支拡張反応をリアルタイムで定量化できます。
特に、
気管支拡張薬候補の評価
気道過敏性研究
アゴニストに対する反応
薬剤濃度と気道反応の関係
などの解析に利用できます。
カルシウムイメージング
気道平滑筋の収縮には細胞内カルシウム動態が深く関与しています。physioLensでは蛍光イメージングを利用してPCLSにおけるカルシウム動態を解析できるため、単純な気道径の変化だけでなく、薬剤作用に関連する細胞内反応の研究にも利用できます。
繊毛運動の解析
気道上皮の繊毛運動は、粘液繊毛クリアランスや気道防御機能に重要な役割を持っています。physioLensでは、PCLSにおける繊毛の拍動頻度を測定できます。
薬剤や刺激による繊毛機能への影響を評価することで、気道機能をより多角的に解析することが可能です。
PCLSを用いた薬効評価の実験イメージ
physioLensを利用したPCLS薬効評価では、例えば次のようなワークフローを構築できます。
STEP 1 PCLSの作製
マウス、ラット、ブタ、ヒトなどの肺組織から精密切断肺スライスを作製します。
STEP 2 PCLSをプレートにセット
作製したPCLSを6ウェルプレートに配置し、physioLensにセットします。
STEP 3 ベースラインを測定
薬剤投与前の気道内腔面積、カルシウム動態、繊毛運動などを記録します。
STEP 4 薬剤を自動投与
アゴニストや候補化合物を設定した濃度・条件に従って投与します。複数濃度を連続して投与することで、用量反応の解析も可能です。
STEP 5 リアルタイム画像解析
薬剤投与前後の気道収縮・弛緩やカルシウム動態などを測定し、候補化合物に対する組織反応を定量化します。
このように、薬剤投与から画像取得、解析までを一つのシステム上で実施することで、PCLSを用いた薬効評価ワークフローの標準化を支援します。
気管支拡張薬・気道過敏性の薬効評価
PCLSの代表的な用途の一つが、気道収縮と気管支拡張反応の評価です。
例えばメタコリンなどの刺激によって気道収縮を誘発した後、候補化合物を投与し、気道内腔面積の変化を追跡することで、薬剤による弛緩反応を評価できます。
さらに複数濃度を比較することで、
薬剤濃度 → 気道反応 → 用量反応曲線
という一連の薬理学的評価につなげることができます。
培養細胞だけでは直接評価することが難しい「実際の気道組織の収縮・弛緩」を測定できることは、PCLSを利用する大きな利点です。
喘息・気道過敏性研究
喘息では、気道平滑筋の過剰な収縮や刺激に対する反応性の増大が重要な病態の一つです。
PCLSでは個々の気道を直接観察しながら収縮性を測定できるため、気道過敏性の研究や治療候補化合物の評価に適しています。
physioLensでは、メタコリンなどを用いた用量反応解析と気道内腔面積の測定を組み合わせることで、刺激に対する気道の感受性や反応性を定量的に解析できます。
また、カルシウムイメージングを組み合わせることで、気道平滑筋の収縮に関連する細胞内シグナルについても研究できます。
COPD研究
PCLSはCOPD研究においても利用されています。
COPDでは気道狭窄、気道反応性の変化、肺実質の障害、粘液繊毛機能の異常など、複数の病態が関与します。
PCLSを利用することで、肺組織の構造を維持しながら薬剤や刺激に対する気道反応を観察できます。
physioLensによる気道収縮測定や繊毛拍動解析を組み合わせることで、候補化合物が肺組織の機能に与える影響を定量的に研究できます。
肺高血圧症・肺血管研究
PCLSには気道だけでなく肺血管も含まれるため、血管反応の研究にも利用できます。
physioLensでは、明視野および蛍光イメージングとリアルタイム収縮性測定を組み合わせることで、肺血管反応やカルシウム動態を研究できます。
肺高血圧症などにおける疾患メカニズムの解析や、血管作動性候補化合物の評価にも応用できます。
PCLSをex vivo肺モデルとして利用するメリット
PCLSは、肺組織の複雑な構造や細胞間相互作用を保持できることから、in vitro培養系とin vivo研究の間を補完する研究モデルとして注目されています。
特に薬効評価では、
培養細胞によるスクリーニング↓PCLSによる組織レベルのex vivo薬効評価↓in vivo評価
というように、異なる研究モデルを組み合わせた評価戦略を構築できます。
PCLSだけでin vivo研究を完全に代替するものではありませんが、候補化合物の絞り込みや作用機序の検討、ヒト肺組織を利用したトランスレーショナル研究などに利用できる点が大きな特徴です。
動物由来からヒト由来PCLSまで
physioLensは、
マウス
ラット
ブタ
ヒト
由来の肺組織を用いたPCLS研究に対応しています。
動物由来PCLSによる基礎研究からヒト由来肺組織を用いた研究まで、異なる研究段階で同様のイメージング・解析アプローチを利用できます。
動物モデルとヒト組織で候補化合物の反応を比較するなど、前臨床研究からトランスレーショナル研究への橋渡しにも活用できます。
PCLSによる薬効評価でphysioLensを使用するメリット
physioLensは、単なるPCLS観察用顕微鏡ではありません。
薬効評価に必要となる
薬剤投与+高精度位置決め+高速イメージング+気道内腔解析+用量反応+カルシウムイメージング+繊毛運動解析
を統合したPCLS研究プラットフォームです。
同じ位置を繰り返し測定しながら薬剤に対する反応を追跡できるため、PCLSを利用した定量的な薬効評価の効率化・標準化を支援します。
PCLS薬効評価・ex vivo肺モデルについてよくある質問
PCLSとは何ですか?
PCLSはPrecision-Cut Lung Slicesの略で、日本語では「精密切断肺スライス」などと呼ばれます。肺組織を一定の厚さに切り出したex vivo組織モデルで、肺本来の組織構造や複数の細胞種を維持した状態で解析できることが特徴です。
PCLSは薬効評価に使用できますか?
はい。PCLSは候補化合物に対する気道、肺血管、その他の肺組織の反応を評価するために利用されています。特に気道収縮や気管支拡張、用量反応など、組織レベルの機能変化を直接観察できる点が特徴です。
PCLSと培養細胞の違いは何ですか?
培養細胞は特定の細胞における分子・細胞レベルの反応を研究するのに適しています。
一方、PCLSでは複数の細胞種や細胞外マトリックス、気道や血管などの組織構造を維持できるため、より複雑な組織レベルの反応を研究できます。両者は競合する研究モデルではなく、目的に応じて相互補完的に利用できます。
PCLSはin vivo試験の代わりになりますか?
PCLSには肺組織構造を維持できるという利点がありますが、全身循環、免疫系、代謝などを含む生体全体の反応を完全に再現するものではありません。そのため、in vitro研究とin vivo研究の間を補完するex vivoモデルとして利用することが適しています。
physioLensではどのような薬効評価ができますか?
physioLensでは、PCLSを用いて薬剤投与前後の気道収縮・弛緩、用量反応、カルシウム動態、繊毛拍動などを測定できます。気管支拡張薬、気道過敏性、肺血管反応など、呼吸器系候補化合物の機能評価に利用できます。
ヒト由来PCLSにも対応していますか?
はい。physioLensはマウス、ラット、ブタだけでなく、ヒト由来肺組織を用いたPCLS研究にも対応しています。ヒト肺組織を利用できる研究環境では、動物モデルで得られた結果とヒト組織における反応を比較するトランスレーショナル研究にも活用できます。
PCLSを用いた薬効評価・ex vivo肺モデル研究をサポート
PCLSは、肺組織の構造と機能を維持しながら候補化合物への反応を解析できるex vivo肺モデルです。
physioLensを使用することで、薬剤投与、気道イメージング、用量反応、気道収縮解析、カルシウムイメージング、繊毛運動解析を一つの研究プラットフォーム上で実施できます。
PCLSを利用した薬効評価、喘息・気道過敏性、COPD、肺高血圧症などの呼吸器研究をご検討の研究者の方は、オレンジサイエンスまでお問い合わせください。
研究目的や使用する肺組織、測定項目に合わせて、physioLensを用いた研究環境の構築をご提案します。
emka TECHNOLOGIES
emka TECHNOLOGIES社は、1992年にフランスで設立され、当初は、アイソレーテッドオーガンバスやランゲンドルフ灌流装置を開発、製造しており、2000年には非侵襲性のテレメトリーをリリース、2014年には、SCIREQ社(カナダ)をグループに入れることにより、呼吸器研究用機器を製品ポートフォリオに加え、幅広い分野の機器を、世界の研究者の方々に提供しています。
オレンジサイエンスはemka TECHNOLOGIESの日本総代理店です。日本では唯一emka TECHNOLOGIES社と取引できる窓口となっております。日本国内で展開される様々な研究プロジェクトを支え、研究者の皆様がより効果的かつ効率的に研究を進められるよう、迅速で専門的なサポートを提供しています。

主な製品
マウス・ラット用テレメトリー
ジャケットテレメトリー
オーガンバス
ランゲンドルフ

主な製品
マウス・ラット肺機能測定装置
マウス・ラット呼吸測定装置
吸入暴露装置
細胞暴露装置
アプリケーション
その他の製品
Precisionary ビブラトーム(振動式ミクロトーム)
組織切片作製

Precisionary ビブラトームは細胞や組織の切片を特許取得済みの圧縮技術によりビビリなしで作製し、急性組織上の多くの生存細胞を維持します。肺機能を解析した後、肺を取り出しスライスしたり、肺1つから複数の組織サンプルを取得することが可能です。
従来のビブラトームの5倍の速さで切開し、ブレードを組織に当てる時間を短縮し、より良い切開を実現
Auto Zero-Zテクノロジーにより、Z軸のたわみを1 µm未満に低減
高周波振動メカニズムにより、ビビリマークを低減または除去
持ち運びに便利な軽量設計
完全自動化:切開+厚み調整
360度のアガロース包埋により、切断プロセス中に組織を安定化
Etaluma Lumascope
インキュベーター内で使用できる3色蛍光ライブセルイメージング蛍光顕微鏡


EtalumaのLumascope(ルマスコープ)は、優れた感度、解像度、ゼロピクセルシフトを備えた、半導体光学の新しいコンセプトで設計された、倒立型小型蛍光顕微鏡です。日々顕微鏡を使用する科学者によって考案、設計され、そのコンセプトデザインにより、インキュベーター、ドラフトチャンバーなどの限られたスペースの中で使用でき、幅広いラボウエアでのライブセルイメージングを可能にします。
多点観察モデル、定点観察モデルがあり、様々な観察シーンに対応できます。




