top of page

器官型組織培養のための組織切片作製

6 時間前
読了時間: 15分
器官型組織培養のための組織切片作製

器官型組織培養では、生きた組織が持つ3次元構造や細胞間の関係をできるだけ保ちながら、体外で培養・観察・処置を行います。その出発点となるのが、厚さがそろい、表面の機械的損傷を抑えた組織切片をすばやく作製することです。

Precisionary社のCompresstome®は、生組織と固定組織の切片作製に対応する振動ミクロトームです。アガロース包埋と独自の圧縮技術によって試料を安定させ、切断時の組織の変形やチャタリングを抑えるよう設計されています。脳、腫瘍、心臓、肺、肝臓などを対象とした器官型スライス培養や精密切断組織スライス(PCTS)の作製に利用できます。



Compresstome VF-510-0Z






器官型組織培養とは

器官型組織培養とは

器官型組織培養(organotypic tissue culture)は、組織や器官の一部を生体外で維持し、その組織に由来する構造や機能、細胞同士の相互作用を研究する培養法です。このうち、生きた組織を一定の厚さに切り出して培養する方法は、器官型スライス培養(organotypic slice culture)と呼ばれます。

細胞を単離して培養する2次元培養と比べ、器官型の組織切片では、元の組織に由来する3次元構築、複数の細胞集団、細胞外マトリックス、細胞間相互作用を一定程度保ったまま観察や実験処置を行えます。そのため、基礎生物学だけでなく、電気生理学、イメージング、毒性評価、薬効評価、がん免疫研究などに利用されています。

ただし、組織構造や生存性を維持できる期間と程度は、組織の種類、試料の状態、切片厚、切断条件、培養法、培地、酸素や栄養の供給条件によって異なります。目的とする解析に合わせた条件検討が必要です。



2次元培養・オルガノイド・器官型組織切片の違い

実験モデル

試料の作り方

保持される主な特徴

主な検討事項

2次元細胞培養

単離した細胞を平面上で培養

細胞固有の性質の一部

元の組織構造や細胞間関係が失われやすい

スフェロイド・オルガノイド

細胞を3次元的に凝集・自己組織化させる

3次元構造や一部の組織機能

作製期間、モデル間差、元組織の構成再現性

器官型組織切片

摘出組織を切片化して培養

元組織に由来する構造、細胞集団、間質、細胞間相互作用

切断損傷、拡散、培養可能期間、試料間差

それぞれに異なる利点があり、研究目的に応じて選択または組み合わせます。器官型組織培養は、元の組織環境に近い状態で短期から一定期間の変化を調べたい研究に適しています。



器官型組織培養の切片作製で重要なこと

1. 採取から培養開始までの時間を抑える

生組織を用いる実験では、摘出後の時間経過や温度、酸素化などが組織の状態に影響します。特に脳切片を電気生理学に使用する場合は、表層にパッチクランプ可能なニューロンを確保するため、迅速で損傷の少ない切片作製が重要です。


2. 切片表面の損傷を抑える

切断時に試料が押される、傾く、つぶれる、振動するなどの動きが生じると、組織構築や切片表面の細胞に影響する可能性があります。後段でイメージング、電気生理、免疫染色などを行う場合も、滑らかな切断面を得ることが重要です。


3. 切片厚をそろえる

切片厚は、酸素・栄養・試薬の拡散と、保持したい組織構造とのバランスを考えて設定します。厚さのばらつきは、薬剤曝露、染色、画像取得、定量比較などの再現性に影響し得るため、一定した切片作製が求められます。


4. 組織ごとに条件を最適化する

脳、腫瘍、心筋、肺、肝臓では、硬さ、弾性、線維化、壊死の有無などが異なります。同じ臓器でも動物種、年齢、病態、採取部位によって切れ方が変わるため、切片厚、ブレード、切断速度、振動、包埋条件を試料ごとに検討します。



Compresstome®が組織切片作製を支える仕組み

アガロース包埋と圧縮技術で試料を安定化

Compresstome®では、切片作製前に組織試料をアガロースで包埋し、試料チューブ内で保持します。軟らかい組織や不規則な形状の試料を周囲から支えることで、ブレード接触時の移動や変形を抑えます。独自の圧縮技術は、切断面付近の試料を安定させ、均一な組織切片を作製しやすくするための設計です。


Auto Zero-Z®で上下方向の振動を低減

ブレードの不要なZ軸方向の動きは、切片表面のチャタリングや損傷につながる可能性があります。Auto Zero-Z®テクノロジーは、振動ヘッドをあらかじめ調整し、メーカー公表値でZ軸方向のたわみを1 µm未満に抑える設計です。


迅速な切断で生組織の処理時間を短縮

メーカーは、VF-510-0Zについて従来型ビブラトームと比べて最大5倍の切断速度を案内しています。試料にブレードが接触する時間と、摘出から培養開始までの処理時間を短くできることは、生きた組織を扱う実験における利点です。実際の速度と切片品質は、組織や設定条件によって異なります。


全自動化による切片作製の一貫性

VF-510-0Zは、切断動作と厚み送りを自動化したモデルです。複数の切片を作製する工程で、作業者による操作差を抑えながら、設定した条件で連続して切片を得ることができます。



「Compresstome®(コンプレストーム)」





器官型組織培養に向けた切片作製の流れ

以下は一般的な流れです。実際の条件は、研究プロトコル、組織、動物種、解析方法、施設の安全管理・倫理規定に合わせて設定してください。


STEP 1 組織の採取と前処理

採取した組織を、目的に応じた緩衝液や培地で速やかに取り扱います。壊死部や不要部位の除去、試料サイズの調整など、後段の包埋と切片作製に必要な前処理を行います。


STEP 2 アガロース包埋

組織をアガロース内に配置し、試料の向きと切断面を決めます。包埋によって周囲から試料を支え、切断中の動きを抑えます。


STEP 3 切片厚と切断条件を設定

目的の解析に合わせて、切片厚、切断速度、振動条件、ブレードなどを設定します。初回は組織の硬さや形状を確認しながら条件を最適化します。


STEP 4 切片を回収して培養を開始

作製した組織切片を培地へ移し、膜インサート、浸漬培養、気液界面培養など、プロトコルに応じた方法で培養します。切片の折れ、裂け、厚さ、表面状態を確認します。


STEP 5 生存性と実験品質を評価

生存性、組織形態、細胞組成などを確認し、目的に応じてライブイメージング、電気生理、免疫組織化学、遺伝子発現解析、薬剤処置、毒性評価などを行います。



器官型組織切片を利用できる主な研究分野

対象組織・分野

主な研究例

脳・神経科学

神経回路、ニューロンの活動、パッチクランプ電気生理、カルシウムイメージング、神経疾患モデル

腫瘍・がん免疫

腫瘍微小環境、患者由来腫瘍切片、薬剤応答、免疫細胞との相互作用、免疫療法研究

心臓

生きた心筋切片の培養、カルシウム動態、収縮機能、心筋症研究

精密切断肺スライス(PCLS)、気道機能、炎症、感染、薬剤・毒性応答

肝臓

精密切断肝スライス、肝障害、代謝、薬効・毒性評価

その他

腎臓、腸、膵臓、脾臓、リンパ節、筋肉、軟骨などの組織切片研究

精密切断組織スライスそのものについては、精密切断組織スライス(PCTS)の解説ページもご覧ください。



器官型組織培養・組織切片を用いた研究例

患者由来大腸がん組織のex vivo培養による薬剤組み合わせの評価

Gavertらは、29例の新鮮切除ヒト大腸がん組織を用いたex vivo器官型培養で、in vitroスクリーニングから選ばれた薬剤組み合わせを評価しました。検討した組み合わせの中でMEK阻害とSrc阻害の併用が一部の試料で有効性を示し、特定の遺伝学的条件下におけるpSrcの予測バイオマーカーとしての可能性も報告されています。この研究は、患者由来組織の構造や腫瘍微小環境を含むex vivoモデルを、薬剤候補の優先順位づけに利用できる可能性を示しています。


患者由来頭頸部がん切片の培養条件最適化

Greierらは、頭頸部扁平上皮がんの患者由来組織からCompresstome®を用いて厚さ300 µmの切片を作製し、94枚のスライス培養を解析しました。試験した条件では、培養7日目まで生存性が安定しており、自己多血小板フィブリン(PRF)の添加による生存性の向上も報告されました。著者らは、患者由来の腫瘍構造、間質、細胞の不均一性を残すスライス培養が、生理学的研究や薬剤作用の評価に利用できる可能性を示しています。


膠芽腫の幹細胞と腫瘍微小環境を調べる3次元モデル

Ruiz-Garciaらは、膠芽腫研究に用いるニューロスフェア、オルガノイド、器官型モデルの作製法をまとめています。2次元培養と比べ、これらの3次元モデルは、元の腫瘍の遺伝的・エピジェネティックな特徴や腫瘍微小環境、細胞間・細胞-マトリックス間相互作用をより反映できるモデルとして位置づけられています。


注:上記論文は、Precisionary社のWebサイトでCompresstome®関連文献として紹介されています。具体的な装置、切片厚、培養条件は、各論文の本文またはプロトコルをご確認ください。



研究者によるウェビナー・導入事例

以下はPrecisionary社が紹介している研究者ウェビナーおよび導入事例です。組織切片作製から培養・解析までの実際のワークフローを知るための参考資料として利用できます。














神経科学:University Hospital Würzburgにおける脳組織切片、電気生理、イメージング



器官型スライス培養の推奨モデル

Compresstome® VF-510-0Z


Compresstome VF-510-0Z

VF-510-0Zは、切断と厚み送りを自動化した振動ミクロトームです。生きた組織切片を連続して作製し、切片厚と作業工程の一貫性を重視する器官型スライス培養に適しています。

  • 生組織・固定組織の切片作製に対応

  • アガロース包埋と圧縮技術による試料の安定化

  • Auto Zero-Z®によるZ軸方向の不要な動きの低減

  • 切断と厚み送りを全自動化

  • 脳、腫瘍、心臓、肺、肝臓など幅広い組織に対応

  • 電気生理、イメージング、組織培養、PCTS作製などに利用可能






研究目的に合わせて選べるCompresstome®シリーズ

モデル

操作方式

主な選択の目安

全自動:切断・厚み送り

生組織切片の連続作製、一貫性、操作の標準化を重視する研究

半自動:切断は自動、厚み送りは手動

厚み送りを手動で調整しながら切片作製を行いたい研究

大口径・全自動

大型組織、全臓器、複数試料、ハイスループットの切片作製

モデルの適否は、組織サイズ、希望する切片厚、1回に作製する枚数、後段解析などによって異なります。



器官型組織培養と切片作製に関するよくある質問

器官型組織培養と器官型スライス培養は同じですか?

器官型組織培養は、組織や器官に由来する構造・機能を保ちながら生体外で維持する培養法を広く指す言葉です。器官型スライス培養は、その中でも生きた組織を一定の厚さに切片化して培養する方法です。


器官型組織培養にはどの程度の切片厚が適していますか?

一律の厚さはありません。対象組織、動物種、培養期間、酸素・栄養の供給方法、薬剤の浸透、観察・解析方法に応じて決めます。例えば、患者由来頭頸部がんの研究では300 µmの切片が使用されていますが、この条件がすべての組織に適するとは限りません。


生組織と固定組織の両方を切片にできますか?

Compresstome®は生組織と固定組織の切片作製に対応します。ただし、器官型組織培養では生存性を維持する必要があるため、採取後の処理、緩衝液、温度、酸素化、切断速度などを含む生組織用のプロトコルが必要です。


なぜアガロース包埋を行うのですか?

アガロースが試料の周囲を支えることで、切断時の移動、傾き、つぶれ、変形を抑えやすくなるためです。特に軟らかい組織や形状が不規則な組織の安定化に役立ちます。


ビブラトームと回転式ミクロトーム、クライオスタットの違いは何ですか?

ビブラトームは、振動するブレードで生組織や固定組織を切断でき、培養や電気生理などに用いる比較的厚い生体組織切片の作製に適しています。回転式ミクロトームは一般にパラフィン包埋試料の薄切に、クライオスタットは凍結試料の切片作製に使用されます。目的とする切片厚、試料処理、後段解析に応じて選択します。


ヒト由来の腫瘍組織にも使用できますか?

Compresstome®は、ヒト由来腫瘍を含む組織切片研究で使用されています。ヒト試料を扱う場合は、倫理審査、インフォームド・コンセント、バイオセーフティーなど、所属施設の規定に従う必要があります。


どのモデルを選べばよいですか?

器官型スライス培養で切断と厚み送りの自動化を重視する場合はVF-510-0Zが主な候補です。手動で厚み送りを調整したい場合はVF-210-0Z、大型試料や複数試料を扱う場合はVF-800-0Zが候補になります。対象組織、試料径、希望厚、処理数、解析方法をお知らせいただければ、適したモデルをご案内します。



組織切片作製のご相談・デモ機貸出

器官型組織培養の成否には、切片作製だけでなく、組織の採取、前処理、培養条件、評価方法を含む一連のワークフローが関係します。オレンジサイエンスでは、研究対象と後段解析を確認したうえで、Compresstome®のモデル選定や切片作製についてご案内します。

お問い合わせの際に、次の情報をお知らせください。

  • 対象となる組織・臓器

  • 動物種またはヒト由来試料

  • 生組織または固定組織

  • 希望する切片厚と試料サイズ

  • 1回に必要な切片数

  • 培養期間と培養方法

  • イメージング、電気生理、薬剤評価、免疫染色などの後段解析

一部製品は、実際の研究環境で操作性や切片の状態を確認できるデモ機貸出にも対応しています。



Compresstome VF-510-0Z





参考文献

  1. Gavert N, et al. Ex vivo organotypic cultures for synergistic therapy prioritization identify patient-specific responses to combined MEK and Src inhibition in colorectal cancer. Nat Cancer. 2022;3(2):219-231. DOI: 10.1038/s43018-021-00325-2. PMID: 35145327.

  2. Greier MDC, et al. Optimizing culturing conditions in patient derived 3D primary slice cultures of head and neck cancer. Front Oncol. 2023;13:1145817. DOI: 10.3389/fonc.2023.1145817. PMID: 37064104. PMCID: PMC10101142.

  3. Ruiz-Garcia H, et al. Development of Experimental Three-Dimensional Tumor Models to Study Glioblastoma Cancer Stem Cells and Tumor Microenvironment. Methods Mol Biol. 2023;2572:117-127. DOI: 10.1007/978-1-0716-2703-7_9. PMID: 36161412.




Compresstome VF-510-0Z






組織切片作製ソリューション


Precisionary社のビブラトームを使用して、組織研究用の健康で生存可能な組織スライスを作成します。



「Compresstome®(コンプレストーム)」

組織研究のための高品質で生存可能な組織スライスの入手

Precisionary Instruments 社のビブラトームは、サンプルの生理学的完全性を維持する正確で生存可能な組織切片を作成するように設計されており、下流の解析において最も信頼性の高いデータを確保します。


高精度ビブラトーム

Compresstome® は、サンプルの生存性と健全性を保ちながら、薄い組織スライスを作成するように設計されており、脳や肺の組織研究に理想的です。この完全自動システムは、研究で正確な結果を得るために重要な、組織切片の生理的完全性を確実に維持します。


VF-510-0Z

VF-510-0Zは特許取得済みの圧縮技術によりビビリ・チャタリングなしで切片を作製し、急性組織上の多くの生存細胞を維持。良質な実験結果を保証します。


Compresstome VF-510-0Z




VF-800-0Z

VF-800-0Z は、市場で唯一の大口径ビブラトーム組織切片作成スライサーです。ハイスループットな組織切片作製(最大20サンプル以上の同時切片作製)と大きな組織サンプルサイズ(臓器全体、肺葉など)に対応するように設計されています。



Compresstome VF-800-0Z





アプリケーション


実験別


臓器


動物モデル



関連コンテンツ





Compresstome©ビブラトームの利点


アガロース包埋

アガロース包埋とは、Compresstome©振動型マイクロトームで組織切片を切り出す前に、組織試料をアガロース溶液で包埋することです。切片作製にかかる時間はほんのわずかで、より健康的で滑らかな組織スライドを作製できます。


Auto Zero-Z®テクノロジー

振動ヘッドは、Z軸方向の振動をなくすように正確に調整されています。Auto Zero-Z®テクノロジーは、生きた組織サンプルの表面細胞へのダメージを軽減し、薄切片のチャタリングを低減してイメージング結果を向上させます。


豊富なアプリケーション例

Precisionary社は、20年近くにわたり組織スライス装置を専門に扱ってきた会社です。免疫組織学や組織切片の培養、電気生理学や植物研究など、幅広いアプリケーションと引用実績があります。








関連製品


flexiVent

肺機能測定・解析

flexiVent肺機能測定・解析ソリューションは、in vivo呼吸力学測定のゴールドスタンダードとして広く知られています。従来の肺換気の抵抗とコンプライアンス力学を超え、中枢気道、末端気道、実質の力学的特性に関する重要な詳細を測定・解析します。

flexiVentは実験条件を精密にコントロールすることで、最高の感度と再現性を実現しています。

オレンジサイエンスはemka TECHNOLOGIESの日本総代理店であり、日本国内においてemka TECHNOLOGIES社との唯一の取引窓口です。



flexiVent




vivoFlow+

呼吸機能解析

vivoFlow+は無拘束での呼吸機能解析装置です。全身、ヘッドアウト、ダブルチャンバーでの呼吸機能解析を提供します。


プレチスモグラフィは、意識のある自発呼吸の実験室被験者の肺機能を研究するための標準的な方法です。気圧脈波法では、被験者が呼吸している間、薬物やその他の刺激にさらされる前後に生じる流量と圧力の変化を測定します。さまざまな被験者のサイズやタイプに容易に適応でき、被験者を連続した実験日に何時間も研究する縦断的研究によく使用されます。



vivoFlow+




Etaluma Lumascope

インキュベーター内で使用できる3色蛍光ライブセルイメージング蛍光顕微鏡

EtalumaのLumascope(ルマスコープ)は、優れた感度、解像度、ゼロピクセルシフトを備えた、半導体光学の新しいコンセプトで設計された、倒立型小型蛍光顕微鏡です。日々顕微鏡を使用する科学者によって考案、設計され、そのコンセプトデザインにより、インキュベーター、ドラフトチャンバーなどの限られたスペースの中で使用でき、幅広いラボウエアでのライブセルイメージングを可能にします。


多点観察モデル、定点観察モデルがあり、様々な観察シーンに対応できます。



Etaluma Lumascope





その他の製品は下記からご覧ください




オレンジサイエンス

bottom of page